溝井孝司のちゃらんぽらんちゃん。

小説のような日記です。児童文学みたいな人が書いてます。

空き瓶にお花を添えること。

肌で触れたことを文字にすること

 雨が降り続いていて、すっかり眠ってしまっていた。雨音はずっとずっと鳴り響いていて、それがどこか違う世界に誘われる合図のようで。その合図に従って眠りにつくと夢を見る。現実か夢か曖昧な世界に漂っている。まるで風のように。気ままに吹いていなくなる。部屋に入ってきてはいなくなる。夢は風だ。吹き抜けていく。当たり前の日常の中に夢は吹き込んでくる。前触れもなく。突然。風はどこにいるのか誰も知らない。知らなくていい。知ってしまったらみんなそこに集まってしまうし、寄ってたかってしまったら風の通り道はなくなってしまうから。雨風に関係なく鳥は飛んでいった。僕は布団の中でその姿を見た。「行ってしまった」とだけ思った。それ以上は何も考えなかった。飛んで行ったことだけを見た。目が覚めると、空気が変わっていた。数時間前とは明らかに違うと思った。雨音はまだ続いていた。何か落ちているようだった。空気が雨につられて落ちてしまったようだった。空気が変わっていた。重くもなく軽くもない。空っぽの空気。音のない世界に包まれたようで。この空気の変化をどうやって言葉にしたらいいのだろう。言葉にならない、肌の記憶。雨と一緒に空気が落ちてしまったんだ。それだけでは補いきれない何かがあった。耳の奥で感じていた。

 

一人で集中したいこと

 「ねぇねぇ、お兄ちゃん遊んでよ」小さい人が声をかけてきた。女の子だ。おかっぱ頭で前髪はしっかり切り揃えてある。水色のワンピースを着て、人形を抱きかかえている。

「この人形はクマのミミちゃん。お耳がどこか行ってしまったからミミちゃん。私はココちゃんっていうの」

「そうかいココちゃん。そうしたら後にしてくれるかい?今、集中したいんだよ。頼むから。ね。お願い。いま物語を書いているところなんだ。いい話が浮かんできそうだったのに。」男は物書きだ。今まさに執筆を進めているところだ。とは言っても、すっかり行き詰まって全く筆は進んでいなかったのだけど。

「うーん。よくわからないわ。集中ってなあに?あたしは今がいいの。今遊びたいのよ。ミミちゃんだってそう言ってるわよ。」ココは物書きの目をじっと見つめてそう言った。

「集中は集中だよ。自分の世界に入りたいってことさ。頼むから一人で遊んでくれるかい?僕は今一人になりたいんだ。」物書きは無愛想にそう告げると、ココは首を傾げてしまった。

「一人になりたいなんておかしなことを言うものね。そんな願いはずっとずっと叶わないわよ。ココは知ってるんだから。」

「そんなことないさ。何を知ってるって言うんだい?一人になれるさ。君がいなくなってくれればね。そうしたらどうだ。どれだけ集中できるか。今よりもずっとずっと集中できる。この作業に没頭出来るんだ。誰にも邪魔されることなく、物語の世界を描くことができる。分かるかい?邪魔されたくないんだよ。頼むから。ね。」

「だったら尚更よ。あなたは一人じゃないもの。一人ココが増えたところでなんら変わらないわよ。あなたが一人と思い込んでいるだけよ。ココと話をしているあなた。集中したいあなた。その先にいる男。物語の中にいるあなた。その先にいる男の子と、女の子。犬、猫、羊。夜ご飯のことを考えているあなた。その先にいる八百屋のお姉さん。お肉屋さんのおじさん。一緒にご飯を食べるお父さん、お母さん。明日のデートのことを考えているあなた。大好きな彼女。その友達。学生時代の友人。その先にいる昔に聞いた音楽を思い出しているあなた。大好きなギタリストやベーシスト。こんなにいるのよ。一人じゃないじゃない。あなたの考えている先にこんなにたくさん人がいるんだから、ココ一人増えたってなんら問題ないでしょう。ココはあなたの物語の一部よ。たまたまここにいるわけじゃないの。ココが話していることだってあなたの一部なんだから。」

「それとこれとは別さ!実際問題、邪魔なんだ。俺は邪魔されている。俺が何人いたって、その先に何人いたって構わない。だけど、君はいま、まさにこの今邪魔をしている。実際に邪魔をしているんだ。分かるか?分かったらさっさとここからいなくなってくれ。」少し強い口調で物書きは言放ったが、ココは悪びれる様子もなく淡々と言葉を返した。

「もう、なんにも分かってないんだから。これだから大人っていやね。いいわ。今日はもう帰る。また来るからね。バイバイ。」

 

空き瓶になって、一輪の花を食卓に添えること

 集中したいとか、自分の世界に没頭したいとか、そういうことをよく思う。だけど、実際に一人になったところで集中していないし、没頭もしていない。どっちにしても気が散っている。誰かのことが気になっている。今やっていることとまったく違うことをやりたくなる。集中力がない。気が散っている。いつもいつも気が散っている。気が散りながら集中している。気が散っていることに集中している。没頭している。そのことに没頭している。一人ではなく、何人もの人と会話している。会話しながら生まれている。何処にいたって、誰といたって一人にはなれない。みんな自分だからだ。邪魔しているわけじゃない。排除しようとするのではなく取り入れればいい。全てを登場させればいい。物語にしてしまえばいい。自分は空っぽにしておけばいい。自分なんてものに捉われなければいい。風が心地よく通れるようにしておけばいい。これは全て物語だ。現実での出会いや言葉も。人も物も自然も。全て物語にすればいい。書くことで、浮き立てればいい。空間を建築すればいい。自分の中にとどめておかなければいい。いつの日も空っぽ。空き瓶になればいい。水を注いで、一輪のお花を添えればいい。食卓に飾ればいい。彩ればいい。そうしてまた、大切な人とお花でも見ながらお話しすればいい。

 

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昨日、書いていて思ったこと。

 

 

伝える術を身につけよう。

もっともっと言葉にしよう。

 

言葉では伝えられないことを知ろう。

絵を描こう。

音楽を奏でよう。

 

そうやって空間を彩っていこう。