溝井孝司のちゃらんぽらんちゃん。

小説のような日記です。児童文学みたいな人が書いてます。

誰にも意志を奪うことは出来ないこと。

縛られていても刻みつけること

 「私は長い文章が嫌いなんです。手短に、分かりやすくお願いします。」女は牢屋に閉じ込めていた男に対して、無愛想に言い放った。

「うるさい。黙れ。お前に何が分かる。お前に評価されたくない。お前のために書いていない。お前の言葉では伝わらない。いつも人を遠くから眺めて、いつも評価だけを繰り返す。もう、うんざりだ。お前と関わりたくない。お前のような思考回路が嫌いだ。お前自身ではない。その回路だ。お前に俺の気持ちは分からないだろう。一生たってもわからないんだ。お前は感じ取ろうともしない。これは言葉じゃない。文章でもない。刻みつけている。ナイフで石にただ無意識で刻み付けている。お前にはどうせ分からないんだ。俺がいまどれだけ苦しんでいるかもだ。俺は縛られている。手も足も鎖で。身動きが取れない。動こうとすれば鎖はより俺のことを縛り付ける。だから、俺は刻んでいる。石に、流木に刻みつける。ナイフは手放さない。これは命だ。時に人も傷つける。一向に構わない。それがナイフの役割だからだ。ナイフは刻むためにある。石だろうが、流木だろうが、人だろうが対して変わりはない。役割をただ果たしただけだ。ナイフを恨むなんておかしな話さ。どうかしちまってるんだ。どいつもこいつも。俺は自由だ。どんなに縛られていようが、そこから抜け出すことが出来る。すり抜ける。俺は抜け道を知っている。俺が見つけ出したものだ。お前には分からないだろうよ。分かろうとすらしない。俺はお前みたいなやつにうんざりしているんだよ。お前らはすっかり洗脳されちまった。そのことにすら気づいていない。お前は縛られているんだよ。今、俺をこうやって鎖で縛り付けているように、お前自身を縛っていることを知っているか?お前は縛られているんだ。そのことを知らない。だから俺はどんなに縛り付けられようと、そこから抜け出す。刻みつける。そこに対象があればなんだっていいんだ。さあ、もう行け。お前に評価されるのはうんざりなんだ。俺はまた逃げ出す。何度だって逃げ出すことが出来る。どんなに縛られたところで俺は抜け出す。独自の回路を持っているからな。お前らとは違うんだ。そのことをよく覚えておけ。」男はそう言って、女に向かって唾を吐きかけた。

 

意志を持ち、意識に屈しないこと

 それは全て大きな人が決めた。選ばれなかったものは立ち入ることさえ許されない。私は外からその光景を眺めるしかなかった。選ばれた者達はただ戦いを続けている。私は選ばれなかったのだ。だからそこに入場する資格はないのだ。特に許可証みたいなものは必要ない。ただ、一枚のフェンスで区切られている。入り口は別のところにある。そこから入ればいいが、それはどうやら許されていないように思えた。私はそう信じ込んでいた。大きい人がそう言ったからだ。私はそれが全てかのように信じ込んだ。疑いもしなかった。大きい人が言うことはどれも正しいように聞こえたからだ。自分の考えに自信を持つことなんてなかった。私の中にある考えが正しいなんて到底思うことができなかった。私はだからフェンス越しに選ばれた者達を眺めていた。時に声をかけた。時に応援をした。私はフェンスより中に入ることを許されていないからだ。それは大きな人たちが決めたことだった。大きな人たち同士で決めた。指揮官や親も含めて決められた。私はそこから外れてしまったのだ。だからここにいる。

 なぜそこ入ることが出来なかったのか。私に力がなかったからだろうか。足が遅かったからだろうか。知識がなかったからだろうか。声が小さかったからだろうか。取り柄がなかったからだろうか。私はフェンスより先には立ち入ることを禁じられていた。どんなに努力したところでそれは変えられぬ事実だった。意志では変えることが出来ないと思い込んだ。もう変えることは出来なかったのだ。遠目に見ていることしか出来ないのだ。もう、とっくの昔に決まっていた。そのことはひとりひとりがうすうす勘付いてはいた。そのことには誰も触れようとしなかった。正式な発表があるまでは、何事もなかったように選ばれるために振る舞うのだ。もう選ばれないことは分かりながらも、振る舞いは続けなくてはいけなかった。最後まで諦めるなと言いながら、もう結果は見えていたのだ。それは本人達が一番よくわかっていることだった。それでも、私は何か変えられるのではないかと、もがいた。全体から漂う意識の波に抗った。しかし、負けてしまったのだ。私は全体の意識に負けた。屈したのだ。押し潰されたのだ。負けた瞬間にその苦しみからは解放された。私は夢から覚めたのだ。取り憑かれていた意識の波から解放された。そこには何十人もの意識があった。これほど私を縛り付けていたのかと、愕然とした。解放された私は、同じ過ちを繰り返すまいと思った。ここで戦っていてはいけないと思ったのだ。戦いすらを放棄しなければならないと悟ったのだ。大きな人にも、そこで飼われていた私たちの意識すらも放棄する必要があった。これは困難であった。いつまでも意識は付きまとうのだ。どんなに逃げようとしても、同じ場所に戻されてしまう。それは魔法だった。もう、逃げ出すことが出来ないよう、指揮官がかけた魔法だった。その魔法を解かなくてはいけなかった。それは、意識に屈しないことだった。私の意志をかき消されないようにすることだった。意志は脆く弱かった。しかし、鍛えることが出来た。脆く弱いが、力強いとさえ思えた。私は意志を持ち続けた。それが、意識に屈しない方法であったからだ。

 

自ら医師になり自己治癒すること

 私は芸術で意志を磨いた。内なる争いが幾度も起こった。意識はいつまでも付きまとう。何度だって襲ってくるのだ。私は芸術で意志を示した。意識の波に飲まれた。それでもまた戻ってくるのだ。何度でも戻ってくる。私は気づけばフェンスの内側にいた。独りでだ。そこは独りでなければ入ることが出来なかったのだ。それは意志だ。意志が瞬間的に私の体を移動させた。一瞬でだ。ワープさせた。私は自らの意志で生き抜いた。傷を負ったときでさえも私は自ら治療した。意志は治癒する力でもある。自己治癒力を高めるのだ。医師である。私は私の医師であるのだ。私は、自ら薬を作り出すことが出来た。薬草を作った。そこにあるものから私は自らの薬を生み出したのだ。薬局では見つけることは出来ないだろう。それは、巣の中にしか存在しないからだ。私の巣でしか生産することが出来ない。手を動かすことでしか生まれない。私はそうやってフェンスの内側に入り込んだ。ステージに立ったのだ。

 

 

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人は弱い。

簡単に意識に飲まれてしまうんだから。

 

でも、芸術は自分の意志に戻ることが出来る。

意志は磨くことが出来る。

 

誰にも意志を奪うことは出来ないんだからね。