溝井孝司のちゃらんぽらんちゃん。

小説のような日記です。児童文学みたいな人が書いてます。

20170628

 彼は監視の目を緩めることはなく、いついかなる時も厳格な態度を保っている。かといって怖いわけでもなく、怒っているわけでもない。ただ、そうやって私をみているのだ。いかなる時も。例えば、お酒を飲んでいたときに程よく酔っ払っている時でさえ、彼は私をただただ眺めている。眺めていると言うとぼーっとしているようだが、その視線は鋭くも感じられた。飲み過ぎて、トイレに駆け込み戻す時でさえ後ろから冷静に見ている。ただ見ている。彼は目なのだ。監視の目。私をいつの日も見張っている。だから、私はお酒に本当に酔ったことがないのだとも思った。それは彼の目があったからであり、自制へと促すことが彼の役割でもあるのかもしれなかった。彼と出会ったのは随分昔のことのように思う。今思い出せるのは野球をしていた時だった。私は小学4年生の頃野球を始めた。中学に上がる前にリトルリーグに移りそのまま野球を高校まで続けたのだが、強いチームに入るとそれなりに練習も厳しくなる。真夏の炎天下は意識を朦朧とさせるし、真冬の走り込みはもう限界だと思う瞬間が多々訪れる。そのまま倒れてしまった人だっている。しかし、私は倒れることが出来なかった。それは彼の目があったからに他ならない。どんなに息を切らし、もうこれ以上は動けないと思っている時でさえ、彼は私をただ見ているのだ。その目が私を動かしてしまうのだ。まるで芝居をしているように感じられる。彼はいつの日も冷静であったし、もしかしたら感情というものを持ち合わせていないのかもしれなかった。私はただ、彼の目を感じていたし、それは今でも感じ続けている。

 彼は自制を促すために私を見張っているのかもしれない。彼のことを書こうと思ったのは、少し彼の役割について整理したいと思ったからである。私は彼のことを書こうとすると少し混乱してしまうのだ。彼の役割について正確に理解し、捉えることが出来ていないからだ。ただ彼は僕が子供の頃からそばにいたことは確かだ。そしてただ見張っていた。私がどれだけ苦しかろうが、酒に酔おうが、怒ろうが、泣こうが、笑っていようがだ。好きな人と過ごし、キスをし行為に及んだ時までも、彼は私を見張り続けた。いつの日もただ冷静に私の姿を見張っていた。特に評価をするわけでもない。しかし、その目が私自身へ評価を促す。私自身が評価をすることになるのだ。決して彼が私を評価していない。彼は何も評価を下さない。ただ見張ることが彼の役割だからである。その見張りこそが私が私を評価する要因であることは確かそうであるのだ。

 私は一人になることが出来なかった。今こうやって一人部屋のなかで書いてながらも、私は彼の目を感じている。絶対的な支配されているようにすら思えてしまう。私は一体になりたいとすら思っていた。様々な感情と一体になることさえできれば、楽になることが出来るのではないかと思った。彼の目がいつからか苦しみであると私は認識している。感情と溶け合ってしまえば、彼の目から逃れることが出来るのではないかとすら思っている。そうすれば、きっと。きっと、ずっとずっと抱えてきた原因不明の苦しみから解放されるのではないかとさえ思った。

 彼は私ではないのだろうか。私は彼を確認しているし、彼は私を見張っている。その関係性は成立しているように思えた。彼のことを私と認識することが果たして正しいのだろうか。彼は確かに私でありながら、私自身の体とはかけ離れた場所にいるようにすら思う。それでありながらものすごく近い場所にいるのだ。私の肩に手をかけている。彼は隣にいる。私はそう思っているが、果てしなく遠い。彼の目は近い。場所を選ばない。それは恐怖ではない。恐れることではないと私は知っているように思えた。そのことは知っているが、どう折り合いをつけていいのかがわからないのだ。私はいまようやく彼とのコミュニケーションを図ろうとしているし、対話をしようと心がけている。しかしどうだろうか。"私"と呼んでいる私は果たして私なのだろうか。彼こそが私の姿であり、いま認識している"私"こそ幻想であるのかもしれないのだ。確かに肉体を持っているのは私であるようなのだが、彼が肉体を持っていないとはまったく言い切れないのである。確かに意識のある私はいま指を動かしているし、こうやってここに刻まれる文字を認識しているように見えるが、果たしてこの私とは私であるのだろうか。彼こそが私自身であり、私と呼んでいる私の存在こそが不確かなのではないだろうか。

 彼はこの瞬間も私を見ている。彼は目である。視線である。その視線こそが私を縛り付ける。身動きを取れなくさせる。今、私は彼に批判的な言葉を浴びせようとする。しかし、そのことでさえ自制が働く。これが彼の力なのだろうか。彼は徹底している。私の自制を徹底して促す。しかし、それは彼の力と認識していることが正しいのか私に判断できるだろうか。彼は見ている。確かに。確かに見張っている。私は存在を確認しているし、いつだってそうだった。いつの日もだ。

 

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ずっと見ている彼。

確かに存在している。

統合ではなく、分裂のまま同居。

 

彼ら、彼女らとの同居。