溝井孝司のちゃらんぽらんちゃん。

小説のような日記です。児童文学みたいな人が書いてます。

20170701

失声

「ちょっと大丈夫かい?」

「はい。大丈夫です」

 そう、返すことしかできませんでした。大丈夫なのか大丈夫じゃないのかの判断が出来ません。うまく声が出ないのです。うまくお話しすることが出来ません。話したところで無駄な時間に終わると、そう考えてしまうことさえあります。心配してくれていることは重々承知しているのですが、如何せん言葉が追いついてきません。うまく喋れないのです。言葉が出てきません。なんというか、そういうことなのです。なので、大丈夫かと言われたところで、説明がつくわけではありませんし、いっそ大丈夫ということにしてそそくさと家に帰るのが最も望ましい行動であると私は考えているようであります。無愛想なのでも、あなたが嫌いなのでもなく、ただうまく言葉が出てこないのであり、それによっての感情というのもうまく言い表すことが出来ないのであります。かといって感情がなくなってしまったかというと、そこにはまだ望みを抱いておりまして、歌うことを用いれば感情を出すことが出来るのではないかと密かに期待しているのであります。しかし、人前となりますと今の自分にとって大変大きなハードルとなりますもので、出来るだけ一人でやることがいいのではないかと思う次第ではあります。なので決して悪い気を起こさないでもらいたいですし、あなたに対して悪意など抱いておりません。ただ、なんというかうまく言葉が出てこずに、ただぐるぐると回りまわっているこの状態をどうも言い表せないのです。ぐるぐると回り続けています。あてもなくぐるぐると。

 

 うつむいていた。座布団に腰掛けて、ただうつむいていた。何をどうしていいのかも分からずにそうしている。夏がそこまで近づいている。夏が来ている。こっちに向かって。強い日差しを向けようとする。夏は苦手だ。体力がいる。夏を生きるには体力がいる。汗が出る。そのことがストレスになる。暑いことが苦手だ。それでも風は入り込んでくる。風が通る家はいいなと思う。大切な要素だと思う。風が通り抜けることが出来るのは良いことだ。それはとってもとっても良いことだ。それでも夏がすぐそこまで来ていると思うと、不安で仕方ない。良く眠りなさい。眠ることが大切です。睡眠から調子を見ることもできるでしょう。眠りなさい。夏は来ています。だから眠るのです。それでも風が運んで来ます。肌に風が触れて行きます。雨は降りますか。今日も雨は降りますか。夏でも雨が降るのでしょうか。夏の雨は心地が良いように記憶していますが、そうだったか覚えていますでしょうか。すっかり曖昧な記憶だけでここまで来てしまいました。すっかり忘れていることもたくさんあるようです。それなのに思い出すことといえば、悪いことばかりです。事実を捻じ曲げて解釈していることを認めたくないのかもしれません。事実とはあるのでしょうか。そこにあるのが事実ですか。見せてもらませんか。そのお話を聞かせてもらえませんか。それが事実だとするならば私は大変興味を持ってその事実に触れることと思います。教えてください。どこに行ったんですか。どこへ行った。お前はどこへ行った。逃げることは許されない。逃げるなど概念にない。逃げることなど出来ない。私は今もこうやって監視を続けている。お前を逃さない。永遠に逃すことはない。ただ見ている。逃げないと決めたのは私だった。あいつは追ってこなかった。逃げられないと決めていたのは私だ。確かに私がそう決めたのだ。本当に申し訳ないと思いました。消しました。そのことは消去しました。何もないことにしましょう。それが一番都合がいいですよ。みんなにとってもいいことですからね。さあ、どうぞどうぞ。こちらへいらしてください。いいことですからね。それがいいことですよ。それこそがいいことですから。さあ、どうぞどうぞ。遠慮なさらずにお入りください。ここはあなたの居場所ですから。お気になさることはなにもありません。さあ、こちらにおかけください。自由にして行ってくださいよ。ここがあなたの居場所ですのよ。さあ、いらっしゃい。待っていましたよ。あなたは中々ここにやって来てくれないものですから心配していましてよ。さあ、どうぞどうぞ。ここにいればいいのです。さあ。どうぞこちらにどうぞ。

 

スープ

 私は逃げ出した。逃げ出したが逃げ出した場所に戻り私はまた逃げ出した。それを永遠に繰り返す。まったくなにがなんなのかわかったもんじゃない。いい加減にしてもらいたいですね。そんなことを言っているなら、こちらだってそれなりの準備をしています。あなたを突き出します。この家から、この街から追放することだって私には容易く出来てしまうのです。そのことはあなたも重々承知でしょうからね。それでも構いません。それでも構わないのです。ですから私のことを。私のことをどうか。どうか。私のことを。落ち着いてください。まあ、落ち着いて。どうぞ落ち着いてください。そちらに腰掛けてください。これはあなたのために用意された椅子です。これがあなたの求めていたものとお聞きしましたが、よろしかったでしょうか。さあ、ゆっくり呼吸して。肩の力を抜いて。あなたに敵なんていませんからね。争うことなどないのですよ。すべは愛ですからね。失礼。この言葉はあなたの嫌う言葉だったかもしれませんね。それも愛ですからね。まあ、笑ってください。冗談ですから。これも愛ですよ。さあ、暖かいスープでも飲んでください。あなたは夏がお嫌いですからね。だから暖かいスープでも飲んで。さあ、どうぞ。これも愛なのですから。さあ、お飲みください。さあ。

 

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調子の悪い時こそ続けるのか。

好きなものは好き。

自分の好きなものはある。

 

忘れてしまう。

それでもあるのだ。