創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20171029

ホームステイ客

 彼が見ようとしていたその茶色の物質は確かに椅子であったが、そのきらびやかな色合いがなぜかあの突然のホームステイ客に見えてきたものだから彼はそれ自体をかき消そうとしたのだ。すると連絡が入る。「ホームステイが現れた」それは危険な来客を示す一通の手紙だった。そこから一つの生死をかけた争いがいまこの瞬間も行われているのだ。きっと手紙の送り主は新聞紙か何か硬い棒状のものを手に取り、ホームステイ客を追い出そうと必死だろう。これは彼の妄想でしかなかったが、それが今まさに現実になるのだから、驚いてしまう。しかし、彼はそのホームステイ客と出会ったわけではなくただ、このカフェにある、茶色のその椅子から連想させるのがどうしてもそのホームステイ客だったけに過ぎない。

 

畳の部屋

 私はまた次に行こうとする。目に入ってくるのは畳の部屋ばかりで少しばかり窓から明かりが漏れ出していた。広がっていたのは草。草原と言って良いかもしれない。そこでこうべを垂れるまで成長した、草たちが生い茂る。一匹の犬が私を見ている。黒い犬だ。私は種別する知識がない。これが何だ、これが何だと分別ができない。きっとゴミ捨てができないのもそのためであろう。黒い犬は私を見つめると、長い舌をだして「ハアハア」と喜んでいるんだか興奮しているんだか、ただ目を私からそらすことはない。私は手を伸ばし、その黒い犬の首元をかいたり撫でたりしてやった。黒い犬は嬉しそうなそぶりを見せて、背中を見せた。背中には白い楕円模様があった。立派な毛並みが私の手元にある絵筆に見て取れ、複雑な気持ちになる。私が使っている絵筆は豚の毛を使った絵筆である。この黒い犬のように立派に豚に生えていた毛なのであり、私はその絵筆をぼーっと見つめるのだが、豚はそっと横たわり、ただ遠くを眺めていた。「俺に関心ごとはない。ただ遠くを見つめる。時期が来ればわかる。その時が来れば、俺の行先は決まるのだ。どうなろうと構わない。何も望んじゃいないからな。俺はただ遠くを眺めるばかりだ。その先に何がある?あの海の先に何がある?」それはいかにも彼らしい言葉であった。数々の修羅場を乗り越えてきた彼にしか語り得ない言葉であった。その話を聞いていた青年は、コーヒーを飲みながらコーヒーカップの内側に描かれている言葉を読んでいた。「Who are you?」「お前は誰だ。お前だは誰だ。どこからきた。何故ここにいる。いつからここにいる。どうしてここにきた。なぜ居座ろうとする。早く行け、早く行け」空は稲光が走る。雨空だった。豚は、小屋に戻ろうともせず雨に打たれながら未だに遠くを眺めていた。その漆黒の瞳、その奥にある瞳の裏側で彼が見ていたのは、荒れ果てた海。波が立つ。波が彼を襲う。動こうとはしない。もう彼はここから動くとはない。それでも波は彼を襲う。海上で1隻だけ生き残ったその船は嵐の中でもがき苦しんでいた。そこにいたのは車椅子の男であった。両足を失った男であった。彼は空を仰いだ。無言でただ、空を仰いでいた。降りしきる雨粒が顔に当たる。垂れていくその雨粒を感じ続けることが、男の生命を躍動させていたのだが間も無く雷、嵐、竜巻。暴風に次ぐ、暴風。男はただしがみつくしかなかった。男は投げ出された、荒れ果てた海の中へと身を飲み込まれたのだ。

 

桜色のファイル

 桜色をしたファイルを持ちながら、緑の、草むら、その歩道の真ん中を歩いていたのは一人の少女だった。後ろにもう一人いる。一人の少女はそのファイルを大事そうに抱えながら道を歩く。「私は桜を咲かせるの。」今はもうすっかり夏であった。緑が眩しすぎた。目がくらみ、世界が白くぼやける。「もう後戻りはできないんですよ。もうここまできてしまいましたからね。最初から、始まりもないわけで、後戻りなんて概念すらない。ただ前を見て進むところまで進むんだ。そんなふうに自転車を漕いでここを通り過ぎた若者もいましたね。彼はここに戻ることはありませんでした。実際には帰り道にここを通ったそうですが、彼がここを再び通るまでは3ヶ月の時間が流れていました。その時間の流れとともに私は進み、そして停滞していたのです。私は何度も停滞をしながらも、結局この時間の流れとともに進むことしかできず、それはまさに青年と同時並行で、すなわち私もその自転車の旅に同行していたということなのです。まさかとは思いますが、そのことを青年は気づくこともなくただ懸命に自転車を漕ぎ続けていました。彼が力尽きたのはここを通り過ぎてまた半年後でした。彼はもう自転車に乗ることはありませんでした。大地に根を張ってしまったのです。彼はもう身動きすら取れない、そんな状況の奴隷となりました。あの頃青年だった彼はもうすっかりと年老いていましたし、その時間の流れを止めることはできませんでした。何よりも青年は恐れていたからこそ、いち早く老いていったのです。青年は自転車を漕ぎながら、その恐れから逃げ出そうと企てる。しかし、時間は彼がどんなに移動をしようと襲いかかってきました。後ろからでもなく、前に出るでもなく、ただ並走しながら。青年はどうして気づかなかったのか。その間も時間は拡張し、延長していたのにもかかわらず、多分その関係性、大きな波、荒波に飲まれたのでしょう。それはある海で溺れた、足を失った男と似ていました。」

 

雨に濡れた靴下

 私は雨に濡れた靴下を脱ぎ、洗濯バサミで挟み部屋の中で干し始めていました。布団をたたみ忘れてしまっていたので、そのまま布団に横たわり、天井を見上げていました。いくつも四角に区切られたその天井を眺めて私は、その線について考えを巡らせていました。「水は油に溶けない。水は油に溶けないからね!」若い店員さんがそう言いいながら笑うと、あたりが揺れ始めた。地震ではなかった。私たちが同時に揺れていたのだ。矢印は駐車場をさしていた。私の車は駐車場ではなく、藤沢駅のその路上に止めており、路上駐車をしながら違反にならないことを願い、そして入った量販店で店員さんを捕まえるのに数時間を要してもう疲れ果てた男は、コーヒーを飲むことで少し気分を落ち着けようと試みた。あたりからは拍手が鳴り響く。男の演奏はここまでだった。コーヒーを注文し、席に着くと、そのピアニストはちらっとこちらを見て笑みを見せた。男は車椅子だったが、誰の手を借りることもなかった。私はただぼうっとその男を眺めていたが、何の感情も動くことはなかった。私には手も足も何の機能もなかったし、機械としても機能することはなかったからである。

 

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雨が強い、また台風が来るらしい。

藤沢でMacBook AirのACアダプタを新調する。

根元を曲げすぎないように注意。

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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