創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20171109

丘の上

 丘の上に立ち尽くす。それは崖ではなかった。追われてもいなかったし、切迫感はなかった。あたり一面は砂だった。砂たちの粒子は時折風とともに体に侵入してくる。その瞬間に砂は体と一体となったのか、それとも砂として体の中を探索し続けるのか。丘から街が見渡せた。色とりどりの屋根が並ぶ。人の気配はない。ここは砂丘であるようだったが、海は近くになかった。ただ街のど真ん中ん突然現れた砂丘の上に彼は立ち尽くしていたのだ。細身の女性が彼の隣には立っていた。その女性は男性でもあった。瞬時に入れ替わる。「そのことはもう大した問題ではないの。シンプルなことよ。ただ単に私たちはここに存在しているだけ。あなたと私、そして彼と私。俺とお前。君とこれ。対比しているわけではない。ただ無数に存在しているだけだ。俺はお前自身だし、お前も私自身よ。」彼はただ話を聞いていた。表情を変えることはなかった。ただこの突如現れた砂丘にすでに足が飲み込まれていたし、逃れようという意思もなかった。飲まれるままに飲まれればいいとすら感じてる。

 

目玉

 鳥が飛んでいたが嘴にくわえているいるのは何かの目玉に見えた。蝉の目玉。これは蝉の目玉さ。俺にその認識はない。ただくわえた。それが蝉であろうが蜘蛛であろうが大した問題ではない。さっきでてきたばかりのはずだった。私は声をあげた。大声で鳴き、叫び続けた。命の終わりを知ってではない。こうやって書いているのは果たして私なのだろうか。それでもただ鳴くことだったのだ。これはそうするしかない。居場所を知らせるでもない。ただの知らせにすぎない。季節の知らせではない。それは人間的な考えであり、この書き手は誰だ?俺はただそうなっていただけだった。敵や味方とかそういうものは存在していない。飛ぶこともあるし、木にへばりつくこともある。その周りを走り回っていたのは台湾栗鼠だった。ケケケケケケケケケ。あいつはいつもそうやって俺たちをあざ笑うかのように鳴くのさ。俺たちの終わりを知っているかのように駆け回り、鳴く。俺は俺の終わりのことを知らないし、それが終わりだとも思っていない。俺たちは何遍でも蘇るし、その間にこの歴史、言葉を使って書き記す。それは痕跡となり、次へ次へと流れていく。そのはずだった。しかし言葉は失われ、それはただの痕跡でしかなく、誰も読み取ることはできなかったのだが、それでも俺たちはいつまでもそうやって伝えるための手段としての痕跡をいつまでも残し続けているのだ。気づいたら俺は高く飛んでいた。こんなに飛んだのは初めてだった。体はない。視界見えている。半分は真っ暗であるが空を確かに俺は見ていた。舌が踊っていた。時折「ビェー!」と大きな音がする。俺は驚きもしない。その音は聞こえていないし、おれは目だからだ。俺はただその光景を眺めながら、その肉体を懐かしんでもいた。もう離れ離れであり神経はつながっていないはずだったが、確かに俺はあいつらとの繋がり、記憶を持っていたんだ。俺は飲み込まれたみたいだ。ここは胃の中だろうか。不気味な液体が俺を覆っているが、決して不快感はない。何かもが自然であるようだった。しばらく俺は目を閉じて、その場で意識を失った。

 

栗鼠

 道がない、道がない。空気が違う、場所が違う。適応、適応。繁殖せよ、繁殖せよ、生命を維持、生命を維持、国などない。私たちに国などない。木の実、植物、あらゆる食材を直ちに確保せよ。ここが私たちに新しい国。私たちはどこからきたのか。そのことを知らない。知らせれてもいないし、知らされたところで受入もしないし、理解しようともしない。私たちはただ、木の実、植物をかき集めるのみ。生態系など知らない。存じていない。ただ私たちはここにいたのだ。それが気付けばどうだろうか。私たちは何かの圧力の中にいるようだった。しかしそのことは知らない。どちらでも良いことだった。私たちは私たちに集中。それでも聞こえてくるの罵声と怒号。なぜかは分からない。理由など知る必要もない。私たちはただ連れてこられたこの場所で生き抜くのみであり、生きるということなんてそんなに大した問題ではない。ただ当たり前の行為として行くところまで行くだけだった。そうであったが、時折先の尖った棒や固く早い弾で殺される仲間が増えていた。私は戸惑うことはなかった。私たちは生まれた時点でもう一人、一匹であるし、それ以外の何物でもない。ただ生きるための知恵は見て学び続ける。もうまったく乖離した存在であり、家族でもない。悲しいとも思わない、怒りもしない。私たちがどれだけ、あの先の尖った棒と固く早い弾に殺されようと、それは私の範疇ではないということ。

 

 彼は丘を下り始めた。女性も隣についてきた。彼は砂と和解し対立関係ですらなかったことを承認した。その女性は彼女というよりはもはや一人の人間であったのだが、そんなことは彼自身もどちらでもよかった。彼女の名前はネルーという。ネルーは長髪でウェーブがかった髪をなびかせていた。丘を下るともうそこにはすぐに街が現れる。この砂丘は街の真ん中に突如現れた穴に見えた。歩いていた。彼らは歩いていた。ネルーは彼を呼び寄せた。「こっちよ。こっちへきて」手招きされるままに彼はネルーのあとを追った。「私は何も知らないし、なぜここにいるのかもわからない。どうしてここに人間がいなくなってしまったのかも覚えていない。何も知らないの。記憶にないの。気づいたらここにいたわ。ただ歩いていたの。歩くことには意味があるように思えたの。そう言われたのよ。歩けと言われた。だから歩いた。でもそれは自分で決めたことよ。自分が歩けと指示したのよ。私はそれを素直に受け入れて歩き始めた。それが今、今のことを言っているの。私は今も歩いている。」

 

栗拾い

 私たちは森の中にいた。街のはずれには森があって、その入り口は完備されている。どうやら市が買い取った土地のようだった。そこには栗が落ちている。私たちは栗を拾うために森へやってきた。歩いてやってきた。今も歩いているところだった。森を歩くと山道へと差し掛かる。そこに栗は落ちていた。両足で栗を剥き、持ってきた割り箸でつまみ、袋へと移して行く。数は取らない。10個ほどで十分だ。私たちの量はそれだけで足りていたし、それ以上は消費しきれなかった。また次必要である人が拾えばいい。私は落ち葉の上を歩いていた。土の感触を踏みしめて、またここを出ればアスファルトの道であるし、どこまでもそれは続いているのだが、土こそが足のための道であることを私たちは知っているようにも思えた。私たちは今もまた歩いていた。これまでも、歩いていたし、今も歩いていた。

 

f:id:mizokoji:20171109120539j:plain

これから少し散歩する。

 

--------------------------------------------------------

溝井孝司(Koji Mizoi)

連絡先:mizokoji@gmail.com

Twitterhttps://twitter.com/kojimizoi

Instagramhttps://www.instagram.com/kojimizoi/

--------------------------------------------------------