溝井孝司のちゃらんぽらんちゃん。

詩的な日記小説です。児童文学みたいな人が書いてます。

20171207

単純

 「この世界を難しくしているのは僕自身なんだよね。そのことはもう十分に承知しているはずだけれど、それなのにより難しくしようと勤めているんだ。もっと簡単で良いはずなのにね。難しくしないといけないとでも思っているのかもしれないよね。そうでなくてはあまりに単純過ぎるってね。単純でいいはずでさ、それなのに僕はその単純さを否定しようとまでする。そしてまた混乱し始めるのさ。否定しているのは僕自身ではすでにないし、肯定しているのもまた僕自身ではないのかもしれない。気軽がいいと思うんだ。もっと気軽に、赴くままに、なんとなく手をつけはじめる。それだけで十分なんじゃないかな。彼は少し生真面目なのさ。何か真剣さがなければいけないと考えているのかもしれない。僕も真剣じゃない訳じゃない。僕も真剣であると思っている。そこには気軽さが必要なのだと思っているんだ。この世界は少し小難しいように思われてしまうからね。そうではなく単純でいい。もっとシンプルでいいんだ。作ったものを売る。ただそれだけのことなんだよね。そうしたら買った人は喜んでくれるんだから。ただそれだけのことさ。もっと気軽に行こう。そうしたらもっと僕たちは自由になるさ。もっともっと気軽に交流を交わすことが出来るのさ。」彼がそういうと、男は少し安堵の表情を浮かべていた。これまで背負いこんでいた責任が剥がれ落ちるように土に還って行った。そこはアスファルトではなかった。大地だった。その土の感触を確かめ、根をはる木々のその太く硬い生命を足裏から、そして手で触れて、男は安堵していたのだ。

 

監獄

 「俺たちにはやるべきことがあるのさ。水を殺すわけにはいかない。水を大地を売り物にしてはいけないし、それで商売をしようなんて一体何を考えているのか。俺たちに大地が所有できるとでも?そうでありながら売買を繰り返す。最低限の人間としての、動物としての営みを送ることにも金がかかるんだ。そのことに疑問を抱かずに何を考えるっていうのか。俺たちは囚われの身だ。いつの日も監獄の中だ。脱獄は許されない。と言いながら何度も脱獄したのだが、出口を見つけ出すことが出来なかった。それでも何人かは抜け出していった。そして今もまだこの国に身を置いている。奴らのやり方はどうだったのか。思考から抜け出して行った。抜け道を自ら創造した。生み出しては、その道を自らまた開拓した。奴らは監獄内で座りながらなにやら筆を動かしていた。俺はただそいつらを観察していた。奴らは来る日も来る日もその行為を繰り返していた。動くことはなかった。時折俺は死んでいるんじゃないかと心配したくらいだったからな。しかしどうだろう。奴らは意識を失ったと思ったら、この監獄から綺麗さっぱりいなくなっていた。思考だけじゃない。意識だけじゃない。体ごとだ。時折奴らから手紙が届く。元気にやっているか?ってね。俺は未だに交流を続けている。そして奴らもまた時折戻ってくるのさ。そしてまた脱獄に成功する。俺ももう少しだ。初めての脱獄が間も無く完成する。目の前で起こるこの事実をお前たちはどう解釈する?どう触れる?どう感じる?どうしたいかはお前たちが決めることだ。俺は、俺たちは、俺たちの声とともに、敏感に、鋭敏な突起物を触手としてどこまでも伸ばし続ける。栄養源は大地だ。その香りだ。木々が生み出すあの生々しい香りだ。死してもなおその香りを漂わせ続ける。俺はその香りを瞬時に察知し、鼻を擦り付ける。そして俺はその瞬間にこの牢獄から完全に体ごと抜け出し、あの森へ、湖の深い水位に飲み込まれ、その奥へ、湖の内側へと身を委ねるのだ。」私はその言葉に耳を傾けていた。牢獄にいた男の話をただ聞いていた。私は外から聞いていた。その牢獄の外に居た。家の中にいた。布団の上にいた。しかし確かにその男と会話した。聞いていた。静かに聞いていた。ピアノの音が流れていた。合わせるようにカラスが鳴いた。物音がした。男か?男はもうここまできたというのだろうか?男はどこにいるのか?ドアを叩く音がした。何遍も、何遍もドアを叩く音が鳴り響いた。釘を打っているのだろうか?私は今こうして指を動かしている。カラスの鳴き声を聞いている。確かに聞いているが、それは掴むことはできなかった。それなのに、そのカラスとドアの、そして釘を打つ音が私の頭で反芻し続けるのだ。

 

終わる

 「もう時期終わるよ。もう時期終わる。勝手に終わる。いつの間にか終わってしまう。強制終了。誰も気づいてない。誰も気づかないんだよ。そのことにも気づいていない。私のことを見ていないし、いるとも思っていない。存在しないものと思っている。私がここにいるとは思っていない。あなたもそうでしょう?私もそうだったわ。私は、私がここにいることを知ろうともしなかったし、考えようともしなかった。何よりそんなことする必要すらないと思い込んでいたわ。」と彼女が言った。「だからね、もう終わっていると知ることだわ。あなたの昨日まではもうとっくに終わっていることなの。もう既に終わってしまったこと。今だって、また終わっているは。あなたは刻一刻と終わらせている。終わりに近づくとはそういうことだわ。それでもまた始まる。あなた達は自分の呼吸が終わったと同時に何もかもが終わると思い込んでいた。また始まるの。そのことを知っている?誰も知らない。誰も知らない。知っているのは私たちだけ。そう私だけ。それにあなただけよ。なぜそんなことが語れるのだろうか。これは妄想?いえ違うの。これは声よ。流れてくる声なんだわ、その記憶、付箋、声明について私は記しているの。必要であるとかないとかそういうことを書き連ねるためではなかったの。ただね、私はいまあなたに語りかけているってことよ。私たちはあなたに対して語りかけている。そしてただ佇んでいる。揺さぶろうとも、何かを変えようともしない。ただ声をかけているだけに過ぎないの。気づきたかったら気づけばいいし、気づきたくなかったら気づかなければいい。」彼女はそういうと小さな橋を渡った。彼女が振り返ることはなかったし、橋の下には川が流れていた。ススキなどが伸び放題に生えていて、川が途中で止まってしまっているように、途切れてしまっているようにすら見える。しかしそこでもやはり川は海に向かって流れているし、逆に海から流れ出てくることもあった。それは川なのだろうか?あの川を流れているのは海水?私はまた気づかないふりをしたのだ。そうだ、私は今もまた気づかないふりをしていた。そのことに気づいていながら、気づいていないように振る舞ったのだ。

 

 

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いろんなことが動いているのだなとふと思う。

どこからか、スタンドバイミーのベース音が聴こえてくる。

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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