創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20171209

白湯

 彼は沸かした白湯を一口飲み込むとその熱が内側を通っていくことを感じた。体は冷え切っていたからより一層内臓が熱で温まっていくようだった。着込んでいた服が、ちゃんちゃんこが暑いとすら感じられた。自分自身から熱を体温を発することができれば良いと思うのだが、どうもそのエネルギーが不足しているのか、寒さに打ち勝つことが出来なかった。とはいえ、これは勝負ではないし、何者とも争う必要もなかった。それでもどこかでその能力、自発的な、持久的な能力というものを失ってしまったのだろうか?いつからこんなにも弱い状態になってしまったのだろうか?いま指先は温まっているし、体全体に熱が覆っているのがわかる。それを逃さないように包んでくれているのが今着込んでいる衣服であったし、それが大変重要な役割をしているようにも思えてくる。家の中でも家を作るのだ。衣服とは家の役割なのである。寒いのは家が原因なのではなく、衣服である。衣服から寒さをしのぐことが出来る。その役割がある。機能性や見た目だけではない。いつからか衣服の役割は人様の目を気にするための道具へと退化していった。もっと根源的な、生命的な振る舞いとはなんだろうか。どこへ行ったのだろうか。

 

映像

 「目を閉じてみたらいいの。」と、彼女は言った。「目を閉じることを恐れてはいけないし、そうやって立ち止まると思ってもいけない。目を閉じることこそ何物よりも先へ進むことができる。これは感覚器官の話で、あなたは全く何も感じ取れていないってことよ。気づいていないってことよ。あなたが目を閉じれば開けてくる。少し休ませなくてはいけない。その眼を、その裏側にある映像に着目しなくては。その映像にある足音、その音楽に耳を傾けるの。散歩と一緒よ。ただ歩くことじゃない。目的地を持たないことよ。その場の発想だけで進むの。発想はあるわ。そこに発想がある。それは足を動かした先にある。そこに置いてきた。あの場所にあるのがその裏側の一部。それらは全てで一部。一側面にすぎない。遮断することよ。遮断した時に見えてくるものは何?希望?それとも憂鬱?劣等感?虚栄心?自尊心はどこに?これらの幻想、何もかもが幻想として今現れているのなら、私は、私はただブリキ製のあの人形、木こりの人形。森の開拓者。それが英雄だと言われていたのは一昔前よ。開発に変わった時、何もかの均衡は崩れ去っていた。これは暴力だというが、私たちの欲求なのかもしれない。欲求不全。行き場もなく、漂っているの。それが蔓延している世界。どんな世界かわかる?希望も絶望も何もかもを履き違えてしまったのかもしれないわ。私たちはまずその誤った履物を脱ぐところから始めなくてはならないわ。そして、もう何もかもを脱ぎ捨て、皮膚事態となり、その皮膚の記憶を癒し続けることよ。傷は深かった。だから私たちは存在している。目を閉じた時に存在している。消えることはなかった。消えようともしなかった。消し去ろうとしたのは誰?あなた?いえ、私自身よ。」

 

宣教師

 映像が流れ始めてもうどれだけ時間が経っただろうか。1時間か、2時間か。2時間経っているのならもうとっくにこの上映は終わっていても良いはずだろうが、一向に終わる気配はない。「詩人の歌を聞いている」とKは言った。「詩人の歌を聞いていた。上映と同時に聞こえてくるのはその詩人たちの声だ。浮かび上がってくるのは文字であり、その世界に没頭していた。映像は同時に流れていたし、止まろうともしなかった。ただ同時並行的に存在し、それでいながら無秩序に整列を繰り返した。それを制御しようと監視を続けている。足音が聞こえた。我々はその足音に着目し、その監視の存在を知るように努める。一芝居打つということだ。我々は一同が整列し、あの舞台上の、つまらない話に耳を傾けていたが、実際の所我々が聞いていたのは思考、その詩人たちの声であり、あの男が話している声はただ錯乱していた。声自体が行き場を失い錯乱していた。受け止めようとする者は誰もいなかった。ただ野放しだった。踊ってはいなかった。狂気に満ちていた。怒り狂っていた。寂しかった。そうただ寂しかった。あの冷え切った広場の中で寂しさだけが、孤独だけがただ彷徨い歩いていたのだ。整列していたにも関わらずである。我々は誰と整列していたのだろうか?我々を統率するのは宣教師たちだった。無宗教という名の宗教を我々は受け入れていたし、無信仰という信仰を産んでいた。それが宣教師たちの狙いであったし、宣教師すらもそのことに気づいていないなかった。ましてや今壇上の上で話をしているあの男さえもそのことに気づこうとはしなかったのだ。」

 

壇上

 「次はいつ戻ってくるの?」Nは言った。「戻ってくる時に私たちはもうこの街にはいないかもしれない。だから伝えておこうと思ったの。もうこの街自体が、島自体が存在していないかもしれない。あの森の中の立ち入り禁止区域の中で何が行われているか知っている?このことを口にしようとすると私たちはそのまま連行されてしまう。罪になる。だから私は今最新の注意を払って、あなたと話しているわ。誰にも聞かれてはならないし、誰も聞いてはいけない。だからあなたと話しているの。あなたはもうここを出ていくでしょうから。船に乗ってどこか遠くへと行くのでしょうね。必要なのは目的地ではないわ。ただその1歩を踏みしめることよ。その1歩、足の裏から伝わるあの土の感触、それすらも次第に奪われ始めて、もうあたりの土は支配されている。取り戻すことは出来るのだろうか?生きている。大地は生きている。だから絶望することもないし、希望を抱くこともない。ただ日常的に大地は生きていた。それだけのことよ。あの森の中で行われている事態をあなたは目撃する勇気はある?対面出来る?出会うことは出来る?私たちが出会ったように、たまたま私たちが今こうしているように出会うことは出来る?あの奴隷船の行く末を変えるのはあなただし、この立ち入り禁止区域の中で行われるあの悪態を変えるのもあなた。私たちなのかもしれない。指名制ではないわ。気づくことよ。気づかぬふりを辞めることなのよ。辞退しなくてはいけない。自らが、あの壇上から降りることよ。それがあなたには出来る?」

 

f:id:mizokoji:20171209103346j:plain

今日は晴れてる。

 

--------------------------------------------------------

溝井孝司(Koji Mizoi)

連絡先:mizokoji@gmail.com

Twitterhttps://twitter.com/kojimizoi

Instagramhttps://www.instagram.com/kojimizoi/

--------------------------------------------------------