創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20171213

色彩

 「朝はまた真っ白な状態から始まるの。」と、彼女は言った。「また真っ白なのよ。昨日まで塗っていた、その色たちは、例えば強い紫だったのかもしれないんだけど、今日になったらそれは青に変わるわ。藍色。少しくすんだ青色。また新しく色を塗るの。私が確かに見つめているのはその色のこと。私の中にある色。色そのものになるの。また青に戻ってくるの。赤い、ハナミズキのあの赤。私たちが持っていた色。鬱金色した糸を持っている。気づけばまた握りしめている。それらが重なりあっているの。また明日はいなくなってしまうかもしれないの。だからその私自身が、私自身が動き出した、その内面で色に触れたその瞬間に、手は動き始めるの。そうしてまたその色と出会い続けるの。残しておくの。目の前に。現れたその色の状態を、今日できるだけ、そのままの生々しい状態で、私は手元に残しておくのよ。そうすれば忘れないし、明日もきっと思い出すことが出来るのかもしれないわ。」

 

記述

 「彼女は、」と、Kは言った。「彼女は、色彩感が豊かな色彩画家だったが、実際は線描画家だったのかもしれない。線描画家だったとしたらその瞬間はもう彼女ですらなくなってしまっていたのかもしれないし、それは彼女ではない人物が入り混じってのことだ。僕はこうやって彼女のことを書いているけれど、結局僕の存在もまた誰かに書かれるのだろうから、出来るだけそのことはオープンにしようと考えている。ただの会話だからね。ただの会話を記述しているにすぎないのだから。深く考える必要もないし、知識も必要ない。いるのは少しの勇気なのかもしれない。僕は描写していない。その瞬間に僕の映像は止まってしまう。ただ語っているだけだった。今広げようとしたその世界には教会があったし、それは大通りだった。しかしそれは、虚像でしかなく、それはいま僕が立ち上げた映像なんかじゃない。誰かが、その理性で、知識で、経験で僕に語りかけてきたに過ぎないのだから、僕は無視しようと思わないし、抵抗しようとも思わない。ただ疑問に思うようにしている。問いを持つことが僕自身なのだから、僕はその問いを元に思考をまた始める。かといって思考がそれまで止まっていたのかと思えばそうではなく、もともとは流れ続けているものが、今問いによって浮かび上がっただけであるのだから。あ、もう行かなくてはいけない。もう次の人が押し迫っているから。僕は速やかに準備を始めようと考えている。入れ替わりの激しい部屋だからね。時には穏やかに過ごせるんだけど、今は入り混じり始めている。半々ってことかな。その割合が刻一刻と変化していく。これも確かに僕自身の存在なのだろうけど、変わりそうだ。僕はそうでいながら今理性で僕自身を保っているのかもしれない。あ、止まった。」

 

虚言癖

 「もういい。もういいんだ」と、Cは言った。「もういいんだ。これ以上思索しないで欲しい。これは俺たちの願いであったし、これ以上はもうおおっぴらにすることも出来ない。確かに俺たちはここにいたし、ずっとお前らの話を聞いていた。だが俺は今弱気になっている。気分が滅入っている。自信なんてない。元々、そんな物を持ち合わせたこともない。持っていたことがない。妄想に過ぎない。虚言癖なだけだ。信じないでくれ。俺のことはもう信用するな。言葉に踊らされるな。それでも俺は踊っていたんだ。無意識の中でダンスしていた。混じり合っていた。空間、壁、床、土、空、空気、湿気、体温、体重、椅子、ギター、マット、ベンチ、糸、ハサミ、鏡。そういった物達と完全に溶け合っていたんだから。現に俺は今蒸発し始めている。カップに入っていたお湯は蒸発し始めている。だからおれはその行く先を見ては、消えていくその湯気と同様な状態になっている。俺はもう直ぐ消えて無くなるだろう。また現れるのかもしれない。その時もまた自信はないのだろうか。人と関わる勇気が、話をすることがうまく出来ないのだとか、容姿が気になって仕方がないだとか、虚勢を張って、どうにかその場を乗り切ろうとするだとか、そんなことをしている。俺はきっとまたそんなことをしていたし、またそうだった。何度だってそうだったのだから、俺のことをもう止めようだとか思索しようとなんてしないでくれ。頼むから。お願いはこれくらいだ。」

 

信頼関係

 なんとなく何もする気が起きず、ぼーっと過ごしていた。動き出したい気持ちはあるが、手が動こうとしないことはよくある。かといって焦らないことだし、自然と動き出すまで待つことも信頼関係を築いてきたからこそ出来ることなのかもしれないと思った。様々な思考が入り混じるのだが、シンプルになるまで待つこと。いつかその波は止まり、静かな時間が訪れることを知っていること。その状態を信頼することなのだ。その信頼感こそが自分自身で積み上げてきたものであったし、これからもきっと崩れ去ることはないのだろうし、しかし忘れることはあるのかもしれない。どちらにせよ、信頼感は確かに存在しているし、抜け落ちることもあるだけのことだったし、あわてる必要はないのだ。何遍も何遍もそう考える。そこに行き着くのだが、どうして忘れてしまうのだろうなんて嘆いてはいけないし、それ自体に信頼感があろうがなかろうが、ただまた手が動く。それだけでいいのかもしれない。そこに色彩があり、自分自身の内面の色、その色、動き、衝動に出会うことが出来ればそれで良いじゃないか。何も慌てる必要も、焦燥感に駆られる必要もない。しかしこの間も世の中は動いていて、その動きに焦りを感じていることもまた事実なのであり、今もまた逃げ出すことに必死になっているし、向き合いながら逃げ続けているのであり、自分自身と向き合いながら世の中から逃げ出しているのだろうか。とはいってもどちらも確かに存在していて、彼にはどちらか一方を消し去ることは出来ない。何者もないことにすることが出来ないのであり、何もかもが内在し、混沌と錯乱を繰り返す。その状態でいればいいのであり、それこそが自らが築き上げた信頼関係であるのだと言える。決して何者も排除しない。彼はただ存在できるスペースを自らが作っているだけだった。多人数を同時に存在させ続けることだった。

 

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新しいことじゃなく、次に進むこと。

繰り返し繰り返し。

 

反復を続けること。

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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