創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20171214

ハードル

 「もう分からないんです。とにかく不安なんです。私は不安を持ち歩いています。いつの日もいつの日もです。そうじゃない時はありません。そうじゃないように見えている時、私はただごまかしているだけだし、すごく無理をしています。気を使ってのことです。みなさんに気を使っているからそうやって私は私をひた隠し、無理をせずにそうやって振舞うことにしています。実際は違うのです。私が抱えているものは違います。私が言っていることとは違います。私は強くありません。何も強くないのです。不安で仕方ありません。どうしたらよいのか分からないのです。生きていくとが不安です。生きていくことのハードルが私にとってはあまりにも高すぎるのです。タスクに追われています。生きるということのタスクに追われているのです。日々それをこなせないと、脱落していきます。私は堕落していきます。こなせていないからです。今またこなすべきタスクをこなせていないような気がしてなりません。人様に迷惑ばかりかけているのです。また新しい条例が法律が出来れば、私はまた厳重に監視されているような気持ちになり、私は精神弱者なのです。演じているなどと言わないでください。これが私なのです。これ自体が私自身なのです。いつもいつも偽っているのはあいつらです。あれは私ではなく、まったく違う男たちの仕業なのです。騙されないでください。決して騙されてはいけない。その表面にある素振りに騙されないでください。嘘だと思って逃げ出してください。触れないでください。信用しないでください。」

 

星空

 彼はまた現実に押し殺されそうになっていたし、しかし十分に思考できる状態ではあった。その果てはすっかりもう疲労状態であり、望ましい状態であるとは思えなかった。それでもやらざるを得ないことなのだと考えてひとまず手をつけたのだろう。少し現実の重苦しい空気が漂っていた。毎月生きているだけで襲いかかってくるのだ。重圧が襲いかかってくる。プレッシャーをかける。生きることのハードルが彼には高すぎた。本当にそれだけのことなのだ。そのことだけが彼につきまとっている。そのタスクをこなしていくことが彼に出来るのだろうか。彼は悩んでいるような素振りを見せながらもう意識は遠くにあった。深夜になると星を眺めた。流れ星だった。空は丸かったし、彼は空と大地、そして海とが真っ逆さまになり、どちらにも行ったり来たり。星は何度も流れた。何度も何度も。寒さは感じなかった。深夜になると風も冷たく身体中が冷える。しかし彼は寒さとも一体になっていたし、襲いかかろうとする重圧とすらも一体となり、それは忘却であったのかもしれないが、真っ逆さまになった星空が何もかもを反転させ、恐怖だとか不安だとかそんなものが世界にはないと信じさせたのだ。そうだとしたらそれは自らが作り上げている幻想なのだろうか?そうだとしても必ずその幻想は舞い込んでくる。生活に入り込んでは、生活することへの重圧、プレッシャーを何度もかけては立ち去っていく。生まれながらにしてもうすでに借金を背負っているのだからたまったもんじゃない。そのことを嘆き始めていた。彼はそのことに嘆いていたし、何もかもの責任を背負わされているような、不安衝動から逃げ出したいとそう感じていたのだ。逃げ出すとはどこに?彼はいま内側にいた。外からではなく、内側からその感情であるとか、重圧であるとかを観察している。そこは暖かい部屋だった。エアコンから出る生ぬるい、少し心地の悪い暖かさではなく、自然の何か湧き出ているような自然の暖かさだった。気温は高いのかと言われれば、低い状態が続いている。しかし体感温度が高いのである。包まれていた。彼は柔らかな生地の羽織ものを着ていた。優しく、その柔らかく軽い生地が彼を包み込んでいた。彼はその内側から外側を観察していた。外側からでは影響を受けすぎてしまうのだ。だからこそ内側から見ることだった。外側の何もかもと混じり合わない状態がそこにはあった。少し窮屈だったその部屋を体全体を使って、丁寧に丁寧に引き伸ばしていく。パンの生地のようなその内面を心地よいサイズまで引き伸ばしてく。これこそが自らが行える仕事であり、これこそが彼にとっての労働だったのだ。外に働きに出るのではなく、内に働きに入るのである。逆ではいけないのだ。内に働きに入らなくてはいけない。それが彼にとって最も重要な任務であったし、役割であったのだから彼は拒否することもなくただ自然とそこに入り込み任務を遂行するのだろう。どれだけ仕事を捜し回ろうとも外に仕事を見つけ出すことは出来るはずがないのだ。しかし拾い集めることができる。それは内側へと続く鍵のような役割であり、それがいくつも必要である場合もまた存在しているのかもしれなかった。そうでありながら常に内側へ入り込むことが重要なのであり、それは混在しているのかもしれなかった。混在させながらもしかし内側へと入り込み、今日も任務を遂行するのである。外にいれば重圧を跳ね返すこともできないだろう。内側から存在を大きく、大きく引き伸ばしていくことだった。外からではなく、外で取り繕うのではなく、内側から何もかもを跳ね除けてしまうのだ。

 

書斎

 「それでも」と、Kは言った。「それでも批判すべきところは徹底して批判せねばなるまい。甘んじてはならない。決して好き勝手させるわけにはいかないのだ。彼らが提示してくるものを甘んじて受けてはならない。その何もかもを跳ね除けていけ。俺たちの批判的態度はこうだ。何もかもを跳ね除けることだ。それは実質的な暴動ではない。内面で起こるあの戦争、虐殺と対峙することだ。飲み込まれてはいけない。ただあの蠢きと共に過ごし、決して飲まれることなくあの重圧と対峙する。これはすべてが修行なのである。何もかもが修行の身であることを忘れてはいけないし、それでいていつの日も本番であるのだから。これは態度なのであり、その態度こそが逃げ道を作る重要な書物であったのだ。その本はもうすでに書斎に埋め尽くされていた。どの本を手に取るのかは直感でしかない。手に取り表紙を眺めるだけで十分だったし、内容を理解しようとすることになんの意味があるというのだろうか。本は読むものではなく、感じるものだ。反応するものであり、瞑想のようなものだった。文字を追うことだ。しかし意味を追ってはいけない。しかし崩壊させてはならなかった。」

 

 

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深夜にふたご座流星群を見に海へ。

 

満点の星空を見上げたら 空はまんまるで 空と海は真っ逆さま

星は流れていく 何個も 何個も

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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