創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20171220

歪む

 「捕まえろという。彼は私のことを捕まえろという。野放しにしてはならいないという。」彼女は追われていたのだろうか?悲壮感は漂っていなかった。「彼はそういうけどね、彼自身が捕らわれていることを私は知っていたわ。彼のことはなんでも知っているように思えた。過ごした年月が長かったからなのかもしれない。けど、出会った瞬間に何かもが分かりあってしまうこともある。私たちは出会うたびに分かりあっていた。会えなかった期間のこと、その間に起きていた出来事、私たちはお互いがそのことを思い返すたびに、分かりあっているのだと感じていたわ。あの頃までは。彼は恐れてしまったの。勢力に。制圧されていく街に。その圧力に。彼が家から出るたびに監視の目が光るわ。彼は緊張感の中で過ごすことを余儀なくされていた。いつどこから襲いかかってくるかわからなかった。何が?それは敵ではなかったのかもしれない。ただ自らが作り出した監視の目だったのだから。私は彼に伝えようとした。しかし彼は話を聞ける状態ですらなくなっていた。興奮していたし、都度失望していた。もう元には戻れないのかもしれないと思ったわ。と、同時に私はまた進まなくてはいけないとそう感じていたわ。彼を救うためではなく、結局は私自身のためによ。そこを履き違えた時、私の世界はどうも歪み出したのだから。私は私自身のためにまた歩み始めていたの。」

 

解決

 「解決しようとは思わない。」Kは言った。「僕は何もかもを解決しようなんてもうすっかり思えなくなった。だってそこに問題はなかったんだ。何度探したって、何度目を凝らしたってそこに問題はなかった。じゃあそう感じさせていたのは?問題だと感じさせていたのは?そうそれは、僕自身だった。そして君自身でもあった。まったく問題なんて存在していないのに、それをやれ問題へと仕立てあげていたのはまぎれもない僕たちの行いだったんだ。そのことを僕は認め、謝罪し、改めた。かと言って反省はしなかった。ただそうしたかったからそうしただけだ。僕たちはいつから素直ではなくなったのだろう。言い訳を探し、粗探し。相手の非を見つけてはそこを攻め続ける。まるでそうやって攻撃している本人が反面教師なんだから笑ってしまう。言っていること何もかもが、語る資格もないのかもしれないよね。だって、自分自身に言っているんだから。恥ずかしいもんさ。声を荒げてはいけないし、語り出すその声に耳を済ませなくてはいけない。そして自らの内側に戻ってくるしかないんだよ。それでも僕は書き続けた。止めようとも思わなかった。曖昧でよかった。答えを探していたのではなかった。ただ書いているこの瞬間に意味があったんだ。小説を読むのと書くのでは大きな違いがあることを知っていなくてはいけない。だってこれこそが僕にとっての現実なのだから。〈事実は小説よりも奇なり〉なのであり、すなわち今この瞬間がまさにそれなのだ。これが僕にとっての事実なのだ。」

 

 「俺が進んだ先で出会っていたのは、どこまでも広大に続く終わりのない世界だった。俺はそこに飲み込まれていた。もう抜け道すらないと思い込んでいた。しかしそれは一瞬にして終わらせることもできた。ボタン一つで世界を一変させることができた。しかしどうだろう。一変した瞬間に襲われるのは絶望であり、苦痛だった。胸が苦しい。またあの不安が襲ってくる。たまったもんじゃない。どうしろというんだ。俺たちは1秒だとか、1分だとか、1時間だとか、1日だとか、1ヶ月だとか、1年だとかそういう単位に押し殺されているんだろう。何度だってやってくる。今日を生き延びるためにどうするだとか、明日を生きるためにどうするだとかそんな不安を抱えて生きている。まったく解決しようのない、いつまでもつきまとうんだろう。あいつらは俺をどこまでも追ってくるんだ。地の果てまで追って、俺にある何もかもを搾り取ろうとするんだ。俺がこの国で生きる価値はあるのか?まったくもって希望なんて見いだすことが出来ないでいるだろう。きっとこれからもそうだ。だから俺は逃げる。どれだけ追いつかれようが逃げ続ける。そして俺はまた自らの国を生み出す。それは国ですらなかった。俺ですらなかった。俺はその瞬間自由になった。間違いなくそうだ。しかし今はもうまた捕らわれている。また牢獄にいる。出入りを繰り返す。またいなくなった奴もいる。それなのにまた戻ってくる奴もいる。戻ってきたばかりの奴らは決まって気分が異常に高揚しているか、失意のどん底にいる。もう生きることに絶望し、失望し、反論する、意見を述べるそういう気すらない。争う意欲すらないし、そもそも自らを生かそうとする覇気も感じられない。あいつらの周りは汚物だらけだ。悪臭が漂う。それをどうこうすることもない。触れようが口にしようがあいつらにはもう関係のないことだった。そんな理性だとかはとうの昔に捨ててしまったのだろう。俺は結局ここでも見ているだけだ。いや待て、あいつは俺だったのか。」

 

縛る

 「そう縛り付けていたのは私よ」彼女は言った。「私は知っていたわ。彼を縛り付けていた。そして解放もした。どちらも私自身の意思で行った。所有物だと思った。彼を所有したの。それの何が問題だったの?なぜ所有することを悪とするの?彼は一人ではもう生きられなかったし、生活もままならない。だから私の思うままにしただけよ。その方が彼にとっても幸せだったはずよ。そうに決まっている。決まり事はいつの日も抑圧するためのものだった。思い通りにしたいというそういう欲望なのよ。素直に受け入れることよ。それがあなたたちのためでもあり、彼のためでもあったのだから。それがなに?今となっては彼は自由になろうとし、結果、結局また牢獄へと監禁。そして失禁を繰り返している。私はほくそ笑んでいたわ。どちらにせよ何も変わらなかったのよ。」

 

性的暴力、差別

 男であるとか女であるとかそういうことを持ち出すのはいつも彼だった。彼はもう自らが持つ性別に絶望していたし、性的暴力を、性的差別を受け続けてきたのだから仕方ない。男女問わず、男女問わず彼は性的暴力、性的差別を受け続けていた。どちらからもどちらかであることを強要される。男であることを強要され、女であることを否定しているのは自分自身だった。男であることを悔いなかった日はない。しかし例えば女だったとしてそれは解決されたのだろうか。結局解決されることはなかった。嘆いているだけなのである。どうせ例えば何もかもが入れ替わったところで逆のことを言い出し、問題を作り、また終わりのないことをとやかく言い出すのだろう。争いは終わるのか?おそらく続くのだろう。きっと終わらない。

 

f:id:mizokoji:20171220144539j:plain

最近絵を描いてないの?と聞いてもらったので。

久しぶりに絵をUP。

 

--------------------------------------------------------

溝井孝司(Koji Mizoi)

連絡先:mizokoji@gmail.com

Twitterhttps://twitter.com/kojimizoi

Instagramhttps://www.instagram.com/kojimizoi/

--------------------------------------------------------

 

広告を非表示にする