創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20171221

敬意

 窓から入り込む明かりが眩しいと感じた。もう朝だったのだ。規則正しく太陽は登り沈んでいく。そのリズムが心地よくもあり、緊張させた。しかし当の太陽本人ときたらそんなことを考えてもいないだろう。ただ登っては沈んでいく。繰り返しているだけだった。自分がなぜ太陽なのかだとか、自分の役割だとか、自分の調子だとか、そんなことを考えることもなくただ、広大な一部として、逆も然りだが回り続ける。

 彼は悲しかったのではない。敬意を払うことが欠如していたのである。見ているのは遠い誰かだ。年に1度会うか会わないかその程度なのにも関わらず。それなのに会いもしない誰かに夢中になり始めるのだ。気にし始めるのだ。会いもしないのに。直接なんらかの影響を及ぼすことも到底ないであろうに、そうやってもっとも身近な人間に、市馬うん触れ合っている人間に払う敬意を忘れていくのだ。遠くの誰かに気を取られて。

 

忘れ物取扱所

 「子供であることも、大人であることも否定しない。そして人であることも否定しない。しかし、皮肉を込めて中傷するのだろう。そこにはちょっとしたユーモアを込めて。」Kの語り口調に私はどんどん引き込まれていた。「僕は語り続けるのかもしれない。前書きに僕の言葉は存在している。しかしその本編にも僕の世界は広がっている。そこにあるのは子供たちだ。いつの日も僕の中にいる子供たちが死んでいくことはない。しかしどうだろう。いつの日か僕たちは子供であることを忘れ、思い出すこともできず、喪失していくようだ。そうして時折、はたと気づくのだろう。そうした時に、皆が訪れるのは"忘れ物取扱所"だ。僕はそこで様々な忘れ物を取り扱っている。時にゴミ置場に捨てられていたものでさえ。それはきっとあなたにとって大切なものだったろうに、大人になってしまった君は何を間違ったのか簡単に宝物を手放してしまう。自分の手で作り上げてきたものをね。ここには年間数百人の大人たちがおずれる。時には余命間近になってようやく訪れたという老人まで。決まって彼らから聞こえてきたのは悲観の音色ではなく、希望溢れる鮮やかな音色だった。それらは心地よく入り混じっていたし、一つの色だけで説明することは出来なかった。そして込み上げてくるのはもう手放すことはしないといった覚悟のようなものだった。しかしそれにも関わらず、もう何度もこの取扱所に訪れる者もいる。そう言った人にも僕はただ耳を傾ける。特に意見もしない。君はもうここにきた段階で、きっと何もかもを知っているからだ。自ら気づき、自らまたこの場を出て、大海原へ。今度はきっと手放すまいと。また忘れてしまったら戻って来れば良いのだ。何度だって。僕がしていることは精神教育なのかもしれない。決して知識だけではなく、もっぱら僕は勉学が得意な方ではなかったし、好きだったのは音楽や体育、そして学校ではなくて家で絵を描くことだった。一人で作ることも好きだったしね。いつしか僕も好きなものを忘れてしまった。自分が何が好きで、何を愛していたのかをすっかり忘れてしまった。かくいう僕もこの忘れ物取扱所の常連だったんだから。ここは笑ってもらっても良いところだ。そんな僕がいまこの取扱所に何食わぬ顔で座っているんだからね。」ドアを開く音がした。「ほら、また大切なものを取りに来たみたいだよ。」

 

子供騙し

 「僕たちは決して忘れることはないのだろう。自分自身にとって大切だったもののことを。そして好きだったこと、愛していたこと。そういうことを忘れることなんて決してできないのだろう。しかし隠蔽することは出来るのだ。それを得意としているのが大人たちさ。そして大切なことを忘れてしまった彼らは僕に向かって言うんだろう。お前の言っていることは子供騙しだってね。じゃあここでひとつある女性の話をしよう。彼女もまたある日ここにやって来た。彼女はすっかり意気消沈していた。これまで来た人たちとは少し様子が違かった。通り過ぎたらここが気になったとも言っていた。彼女は嗅覚が鋭かった。ただ匂いをかぎ分けるそれではなく、そこが自分自身にとって何か大切な、重要なものがあるのではないかという感覚が。そして彼女はこの扉を開いたのだ。しばらくして、彼女はここには私の忘れ物はなさそうですと言った。少し残念そうな顔をしながら、そしてこの部屋を出ようとした。その時だった。彼女は思い出したんだ。彼女のしていた忘れ物を。ここで取り扱っている忘れ物は子供の忘れ物だったから、もう彼女の忘れ物はなかったんだ。彼女は子供もうずっとずっと子供のままだったんだから。一人だったとしても。彼女はそうやって内面の世界に触れ、内面教育を自ら手がけて来たんだ。彼女は働きには出なかったし、収入はほぼ0に等しかった。それでも絵を描いていたし、それが収入になることも度々あった。時には笛を吹いたり、歌を歌うこともあった。散歩して拾って来た枝や葉っぱ、捨てられていた木材に自分で色をつけては子供たちの家を建築していた。そうやって彼女は内面世界を築き上げて来た。自らの精神教育を、自ら施し続けていたんだ。そんな彼女がここに立ち寄った時、そして帰り際に知ったこと。それはもうすっかり"大人になっていた"と言うことだ。彼女は子供であることを殺し、隠蔽することが出来なかった。喪失することが出来なかった。だからずっとずっと二人で共に過ごして来たのだ。そうして彼女はこの忘れ物取扱所を作ったってこと。その二代目が僕ってことさ。彼女は今、美術学校を開いてた。子供から大人まで皆彼女の元に集う。彼女は大人という仮面を被った子供たちのその淀み流していた。水になっていたのかもしれない。内面教育に勤めた。それこそが必要だと、それこそが彼女の重要な役割だと知ってね。彼女はすっかり教育者の顔になっていた。それはどこかすっかり表情が曇ってしまった教育者とは違ったね。そう彼女は有名な美術家だったんだ。あの有名なね。さて、これも子供騙しなんて言われるのかな?」

 

思い出そう

 忘れていた心の話をしよう。誰かの噂はやめて、あの頃を思い出そう。あなたが夢中になっていたあの公園、家の中の机の上で世界はどこまでも広がっていたこと、自ら描いたものが今にも動き出しそうで喋り出しそうで興奮したこと、聞こえてくる音楽に正確な歌詞も知らずに適当に鼻歌を歌っていたこと。さあ思い出そう。そこにあなたの大切なものが落ちてますよ。

 

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どっちから読んでも「1221」。

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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