創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20171222

しゃがみこむ

 不愉快なその足を蹴飛ばして私は遠くへ行こうと決めた。お前なんぞに触れられるほど容易くない。容易ではないのだ。だから私はこの場を立ち去ったのだ。しかし向かった先で待ち受けていたのは、また男どもの障壁だった。どうして、どうしてそこまでして私の居場所を奪い取ろうとするのか。人混みの中で私はもう立っていられなくなり、その場でしゃがみ込んだ。顔を上げることが出来なかった。顔をあげればきっとあの鞄に頭をぶつけるだろうから。私が存在するためのスペースはそこにしかなかったのであるから仕方なかったのだ。私が小さくなればよかった。だから小さくなった。そうするとどうだろう。今度は皆足元を見つめ、またこの空間を壊そうとしているではないか!そうだとしたら私はどこに存在すればいいのだ。上でもなければ下でもない。それよりもはるか上かはるか下か。空に還っていくのか、土に還っていくのか。どちらもあまり変わらない。議論することもない。性質によるものだろう。上に行こうが、下に行こうがどちらだって構わなかったのだから。相変わらずしゃがみ込んでいた私に声をかけたのは一人の女性だった。「よければあちらに椅子がありますから、そちらにおかけてになってはいかがですか?案内しますよ。」そういうと彼女は私の手を引いた。私を椅子に座らせると彼女は何も言わず去って行った。私はまたそこで人の流れを見ていた。あの中のどこに私は居ればいい。それともあの恐ろしい速度に飲まれるしかないのだろうか。あの歩調に、威圧的な空気に、失敗など許されぬといった、それこそが悪だと罵るようなあの同調勢力の中に私も加わり、歩むべきなのだろうか。そうであるなら私はここに座っていよう。そうなってしまうのならば私は生きていないも同然なのだから。

 

遠目

 「風向きが変わったんだ。」Mが言った。「風に沿って歩くこと。時に逆風が吹くこともあるが無理に抗わないことだ。その風はいつだって君を見つめている。スーパーを横切ったら値段を確認する。今日の野菜の値段はいくらかなんてね。畑の野菜を見つめる。これがもらえたらいいなって。山に入ったら足元を見つめる。この野草は食べることが出来るのかと考える。そんなふうに歩いていたら土色の玉を見つける。十円玉。土から生えていたのかもしれない。山は時にお金をも生やしている。それはアスファルトでも一緒さ。アスファルトアスファルトの間にアスファルト色の玉が落ちている。これは一円玉かと思ったら百円玉ってことがある。これ本当。まるで満ち足りた太陽が周りをちょこまかまとわりつく。そんな太陽を遠目から眺めるんだ。きっとそんな時はマフラーに手袋、外套を着込むだろう。太陽を遠目で眺めるなんて君らしいじゃないか。」

 

 満点の星空が落ちて来た。一斉に。無重力に。まるで流れ星。落ちて行ったのは僕だったのかもしれない。空から?それとも空へと?きっと数十年もすれば僕だって星になるだろう。あの謙虚に光る星がいい。煌々と輝く一番星にはならなくたって構わない。僕は星になってまで謙虚でいるつもりだろうか。星になってまであの星の後ろに隠れてしまうのだろうか。僕だって一番星になりたかったんだ。しかし待て、一体どれが一番星なのだろう。見ていたら、どれも星は輝いていた。

 

旅芸人

 「今日は帰ります。また明日も来ますから。きっとまた来ます。」そう言って彼が来ることはなかった。あの日が最後だったのだ。彼は旅芸人だったのか、ギターや民族的な楽器を常に持ち歩いていた。かといって私の元で演奏することはなかった。どうも恥ずかしがり屋だったらしい。そんな遠慮がちな旅芸人がいるもんなのかと私は驚いたもんだ。私は道端で演奏していた彼の音楽にすっかり心酔し、家に招き入れた。夕食を私の家族たちと共に過ごした。寝床も用意したが彼は「落ち着かないのでいつも通り外で寝ます」と言った。ダンボールでしっかりと体を包み込めば暖かいし、それだけでも安心して眠れますと。私にはすっかりそのことが理解ができなかったが試してみると確かに暖かいのだ。自分から発する体温をうまく利用しダンボール内の空間を温めることができた。地べたに座るよりもダンボール一枚引いた方がお尻も冷えなくていい。私は安心とは何かを知らずに来た。私は家がなければ、あの囲われた部屋がなくては安心とは言えないとそう考えて止まなかったが、あの旅芸人は違った。彼はそれだけでもはや十分だったのだ。それだけで安眠し、また翌日も演奏をすることが出来た。私はあまりに多くのものがなくては安心できないのだと信じていたし、それを手にすることが幸福だとも思っていたのだから。さて、私は今何をしているのかというと、ギターを背負って歩いていた。私も今となってはあの旅芸人と同様である。よろしく。

 

かく言う私も

 「しかし私たちが気を取られているのはどこの誰なのだろうか。私はあったこともないが、君はどうかね?」

 「私も会ったことはありません。」

 「そうかそうだとしたらだ、あいつらは一体誰なんだ?なぜ私たちはあいつらに気を取られている。一度だって会ったことがないのにだ。それなのに、それなのに私たちはいつまでもあいつらのことが気になって仕方ない。時に君よりもだ。隣にいる君よりもあいつらの、そう会ったこともないあいつらのことが気になってしまうんだ。もうやめだやめだ。あいつらのことを考えるのは。私はどうかしてしまったんだ。さあ仕事に取り掛かろう。ところで、あいつらは今何をしているのだろう。」

 どうも気になっている人間というのは会ったこともない、話したこともない、何も知らない人間のようなのだが、そういう彼も今もそんなことを気にし始めているのだから元も子もない。噂話は禁物だ。ましてや悪口なんかも注意が必要だ。それにしてもあいつはいつもベラベラと喋っている。口を閉ざすことができないし、思ったことをなんでも口にしてしまう。まったく品格ってもんがない。もっと静寂を大切にしなくてはいけない。静かな時間を沈黙を愛せないようでは、いっぱしの大人にはなれないってもんだ。そこで一つ言わなくてはいけないのだろう。かく言う私もこの場では口を閉ざすことが出来ないのだ。ベラベラと話しを続けている。だからこう思うことにした。あいつのことはさておき、話しを聞いてくれて、私の声に耳を傾けてくれてありがとう。

 

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朝は布の縮絨。

いい感じに柔らかい。

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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