創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20171225

噂話

 噂話。私の耳元で、私の噂話。手馴れたものだった。彼女たちの噂話ときたら巧妙で、決して私のことではないように噂をする。それでも意識は私の方に向いていて、私は知らん顔。どうせどんなに地球が回ったとしても、きっと同じ場所を堂々巡り。抜け出すには少し勇気がいる。それでも同調している方がきっと楽だったのでしょう。彼が私に言ったことは「邪魔。」その一言だった。私はなんの抵抗もできずに言い返すこともできずに、また巣へ帰る。そこで傷口を舐めるの。何も解決しない。むしろまたあの傷までもぶり返すの。また思い出してしまうの。もう忘れていたはずの。しかし彼らは私に対して何もしてこなかったのかもしれない。無視。基本的には無視。そして私が失敗した時、鬱憤を晴らすかのように罵声を浴びせるの。容赦なく。その瞬間にはもう相手の気持ちだとか、相手がどう感じるかとかそんな視点はあってないようなものだったから、それは彼らにとっての憂さ晴らしで、標的は誰でも良かったのかもしれない。私はその中でどうにか誰にも触れられないよう、静かな生活を望んでいたにも関わらず、それなのに私を引きづり出し、私の感情云々ではなく、彼らの感情の当てつけを私は受け続けるの。

 

 汚点

 蛍光のイエローが目に入り込む。明るい色が多用されているかと思えば、目の前にあるのは黒一色。時に深緑色がちらほらと踊る。グレーや紺。少し控えめに。それでいて真っ赤だった。白髪の男女が語らう様子をただ見ている。一人は手帳に向かって、耳にはイヤホン。持ってきた分厚い本を読みふける。また新たな黒。そして白。エプロン姿はお手の物だった。光、少し光が漏れている。背面から、ちょっとの光が漏れ出していて、それを捕まえることはどうも困難なようである。煙に包まれたその室内がどうも苦手だった。壁にかけられている絵は一新されていた。黒い鞄。リュック。黒縁のメガネ。ペン先を揺らす。揺らした先に浮かび上がる文字を追いかける。煙草を手に取る。火をつけ、一服。匂いも共にやってくる。奴らは付きまとってくる。遠慮することなく、堂々と、かと言って大変に控えめにいつのまにか消えていくのだろう。空気を保管することが出来るなら、あの袋の中に残っていたのは車内の匂いだろう。残っていたのだ。あれは家から運び出した時についてきたものかもしれない。また立ち上がりハットをかぶる。外套を着込み、カーキ色のそれと、長いマフラーを首から垂らす。英国紳士は歩き出す。階段を降りて、ハットをまた少し深く被り、メガネをかけ直すのだ。簪が街灯に照らされて眩しい。緑色のブラウスでも着ているらしいが、見えることはなかった。煙が踊る。上空へと、濃紺の空へと。どうも幾分か今日に限っては空は明るく感じられた。遠慮することなく、明かりにはカバーがかけられ、幾分か柔らかい明かりに変えらえているのだが、それらは目に飛び込み、目の裏にいつまでも濁点を残す。その汚点は黒く、どんなに辿ったところでその黒さが和らぐことはない。進むにつれてそれは強く、より強く私の目を覆い続ける。追いかけていたわけではない。ただ迫ってきていたのかと思うが、気づけば汚点は私の周囲をまとわりついていた。あの白いコートが私には眩しい。あの奥にもこの黒い汚点が侵食している。点と点。どこまでも点が連なり、まるで軍隊さんのように規律的で、取り乱すものはいない。侵食されていく。私の世界が、また消え去っていく。あの汚点に、塗りつぶされ、それはもう汚点というには広がり過ぎてしまった。

 

着信音

 着信音が鳴り響いた。場の空気を一転させたのはあの親子の怒号だった。親は子を殴った。止めることはなかった。何度も、何度も殴り続けた。子供は泣き喚く。それに便乗するように手はまた動き続けるのだが、隣で叔母らしき人間が「お前はバカだ、お前はバカだ」と呪文のように唱える。それは彼女の念仏であり、それこそが正義だったのだとしたら、それは魔法というより、呪いだろう。子供はもうすっかり泣き止んだかと思えば次は叔母の念仏に耳を傾けるのだ。「お前は悪い子だ。何もいうことを聞けない。バカだよ。本当にバカだよ。もういい加減にしてくれ。言うことを聞けないバカ者よ。」追われている。君は奴らに追われている。逃げ出すしかないのに、どうして君はそこに居座ろうとするのか。家族であろうと、それが君を追い詰める、それが危険な行為であれば君は家族すらも捨て去るべきなのだが、どうしてそこに留まろうとするのか。あいつらは君を一人の人としてと言うよりは、まるで悪魔のように、扱い君をいずれ死の淵に追い込むであろうに。それなのに君はどうして。ああそうか。結局もう何も言うことはできない。それでも子は親を愛しているのならもう何も言えない。

 

ホットコーヒー

 また彼は現れた。グリーンのカーディガンに身を包み、決まって窓際の席を選ぶ。いつも険しい表情であたりを見渡す。そして読書に勤しむのだ。彼は決まってそういう時間を過ごす。頭の中を覗いて見たいところだが、そんなことをしたら彼の時間を奪ってしまうことになりかねない。とにかく彼は勤勉ということだ。ペンを走らせている。ひたすらに、そして間違いを改める。またペンを走らす。ペン先はこすられた瞬間にインクを噴出させ、何かその行動を賞賛するようにすら感じられるのだが、そこに残るのは、その質感はまったくどんなものだろうか。全くどうなっているのだろうか。例えばその筆跡を指で辿るのだとしたら、私たちは何か大変なものを知ってしまったような気分になるだろう。想像は膨らみ、それは幻想かもしれないがその筆跡者のあとを追うことになるだろう。軽みや重みというのはそこに何を込めたのかということであるのだが、それがそのノート上に残ってしまっているとしたら、いかにそれは残忍なものだろう。君の生命はそこに刻まれ続ける。しかしそれはすり減らしているわけではなく、定着していった浮遊物に過ぎない。彼らは踊る。そこでまた踊る。音楽なしに踊り出すのだ。笑い声が響き、黒いコート。コーヒーを一口。カップを握り、あの形に合わせる。苦味が広がる、もう冷え切ったホットコーヒー。

 

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なんとか。

なんとかかんとか。

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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