溝井孝司のちゃらんぽらんちゃん。

詩的な日記小説です。児童文学みたいな人が書いてます。

20171227

室外機

 室外機の音が鳴り響いているようだった。この部屋にエアコンは付いていないはずだったし、隣の家だったのだろうか?唸るような音に目を覚まし、そのまま炬燵へ潜り込んだ。太陽が正面から入り込む。目を閉じるが隙間から光は漏れ、目の奥へと侵入してくる。前髪に光が当たりより眩しく感じられたのかもしれない。なんとなく辺りを見渡すと、昨日使ったと思われるタオルが2枚干されていた。その姿は少しだらしなく見えた。温かいほうじ茶が入ったカップに伸ばす手はもうすっかり冷え切ってかじかんでいた。何気ない朝の時間が気づけば過ぎていく。時間は一定なんて思ったことはない。何か集中していたあの1時間と、退屈な、席に縛り付けられた1時間では明らかに時間の流れは違ったのだ。彼はもう歩いていた。学校に向かう途中野球用のグラウンドがポツンと存在している。砂利だらけでスライディングなんてしようものならすぐにユニフォームは破けてしまいそうだったあのグラウンドには、すっかり芝生が敷かれていた。そのグラウンドの角を曲がったところで地面が揺れた。地震だと思ったのだがそうではないようだった。

 

地下

 「地下で起こっていること。」Kは言った。「地下で起こっていることをあまりに知らなすぎているのかもしれないよね。そこに埋められているものは?時には空間が生まれる。そこに何かあるのではないかと思うのは多少のロマンが必要なのかもしれない。あの角を曲がった時、君たちは目撃していた。地面を直視していた。それは揺れていたからだし、きっと自分の足、それより下が揺れていると感じたからだろう。そして目をやるのは大木。どうして我々には根がないのだろう?あんなにもわかりやすく、大胆に根が張れさえすれば、どれだけここに存在し続けてきたのかをすぐにでも証明できたのかもしれないのに。細い枝で体を支えていた。心細いと思うか?それにしては随分と心強くもあった。今の所は。大体は支えることが出来ていたのだから、不満を言うこともないのだろう。これからは分からないが。この地面を支えているのは誰だ。今揺らしたのは?知らせ?あの揺れもそうだったのか。それでも忘れていきます。何時までに起きて、何時の電車に乗って、何時までに会社に着く。そしたら何々を何時までにやって、何時から何時まで休憩して、何時にはデスクに戻って、何時まで働いて、そうしたら何時まで小休憩を取り、また何時まで働いて。ああ、いつも先のことばかり。」

 

案内

 「そこの角を曲がったところに新築のマンションがあります。そこで待ち合わせしましょう。そこにあなたの友達が住んでいます。今はどうか知りませんが。」子供が走り回っていた。勢い余って告白した。返事は保留した。諍いなしだった。純粋になんでも伝えた。言おうと思ったことは伝えていた。彼らは複数だった。駐車場でキスをした。集まりも集まって集団がキスをしている。あの駐車場で。あれは一体なんの集団なのだろう?「それはそれとして、このマンションはオートロック付きです。不法侵入はさせません。それなのに子供達ときたら塀をよじ登ってすぐにマンションの敷地内に入ってきてしまう。まるでアクション映画みたいに時に駐輪場の屋根を駆け回ったりもするし、気づけばトラックの荷台に入り込んでどこか遠くへと行ってしまったりもするのですが、その荷台に捕まって引きずられていくと、靴底が焦げ臭くなるらしいですよ。きっと底の減りは早かっただろうと思います。」駐車場には柵が張り巡らされていた。その上を電車が走る。高架下にあるのが駐車場だ。「そしてオートロックの鍵を開けます。エレベーターを使ってもいいし、階段を使ってもいいかもしれません。だって新築ですから。どちらも綺麗です。」エレベーターを降りると塗装業者が作業していて、ペンキの匂いが充満していた。少し鼻を覆うようにしたがすぐに慣れた。慣れた?確かまだ匂いはあるはずだが、追いかけることができなかった。忘れたころに、またペンキの存在を確認することができた。「新築ですからね。今塗りたてほやほやですからね。そこの突き当たりがあなたにご紹介するお部屋でございます。日当たり良好、部屋もそれなりに広いし、バストイレは別です。キッチンの家電は常備されておりますし、お餅でも食べましょう。もうすぐ年が明けますから先取りですよ。なんでも早い方がいい。お餅は私からのプレゼントということです。魚沼産の餅でございます。有名でしょう?魚沼産ですから。」

 

 煉瓦色の外壁が妙に目に焼き付いていた。確か角を曲がる前にはセブンイレブンがあっただろう。その上はまた居住用のマンションになっていた。すっかり間延びしたマンションを下から眺めていた。彼の後ろを車が何台も走り抜けていく。この間数えていたらきっと百台は優に超えていただろう。彼が描いたのは排気ガスだったのか、それともあのペンキの香りだったのだろうか。いや、そうではなくいつだって彼の前には壁が存在しているし、それを認識することもあればそうでないこともあるといったところかもしれない。それなのに子供ときたら簡単によじ登って、簡単に一言で彼の悩みを終わらせてしまう。それが悪化することもあるし、そうでない時もあった。しかし子供だからって皆が皆そうとは限らないのであり、あんな風に自由に塀をよじ登る子もいればそれを側から眺めているだけの子もいるということだ。一緒くたにされては困ってしまうのだ。男であるとか、女であるとか、大人であるとか、子供であるとか、お金持ちだとかそうでないとか、有識者であるとかそうでないとか、著名人であるとかそうでないとか、そんなことをいちいち述べる必要もないのであろう。また工事が始まった。あの揺れは工事だったのだろうか。その影響だったのだろうか。それでも行事というのは大切にしたらいい。しかし負担にならない程度に。そうだとしたら彼自身が集中する時間がなくなってしまうのかもしれないし、しかしそこで感じられることもきっとあるのだからまったくないものにすることには寂しさを感じるのかもしれない。そういうものは取り入れつつ負担にならないようにすることだ。それぞれでいい。強制ではない。塀を登るかどうかは自分で決めて、辞めたのだったらそれでいい。そうやって決められていたのだから、今更尻込みすることはないのだろう。

 

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今日は糸と画材の買い出し。

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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