創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20180107

スタートライン

 暖かい気候だった。もう始まっていたのだ。ついていけるか分からなかった。私はスタートラインに並んでいた。タンクトップに短パン、いかにも軽そうな材質を使っているのを着ている。私は何を着ているのだろう。確認するほどの余裕すら持ち合わせていなかった。馬に乗っている人もいる。あたり一面は芝生だった。人の手で整備された競馬場だった。私はそこでもスタートラインに立ち、馬、あるいは人と同列でスタートの合図を待っている。心の準備が出来ていないだとか、そういうことを言う状況ではなかった。思い出していた。あの真冬にマラソン大会に参加することになり、とにかく完走しなくてはいけないあの状況を私は存分に感じていた。逃げ出すことはできなかった。ただあのスタートの合図が途方もない、ゴールがあるのかも分からないのに投げださえれるような感覚だった。ルートが逸れることは許されない。失格とみなされる。それでも自分が行きたい道に行けばよかったのに、決まったコースしか走ることができない。私は何に怯えていたのだろうか?私は今走っているが、これはマラソンなのだろうか?望んでいたことか?気づいたらここにいたのだ。気づいたらもう寝間着のままで走り始めることになった。そうだ私の家の周りが少しざわついていた。私の家のドアを叩く。来訪者が現れた。男はしっかりと外套を着込み、ハットをかぶったまま私に挨拶した。「おはようございます。さあ、行きましょう。あなたの順番ですから。さあ、行きましょう。」私はどこに行くのかも分からなかった。とにかく眠気まなこをこすりながら、まだ枕だって抱きかかえたままだった。寝癖を直していないし、歯磨きもしていない。メガネかける暇はなかったから、景色はいつまでもぼやけて見えた。息が乱れ始めていた。呼吸音が体内に鳴り響いていた。コンクリートの上を走っていた。左側には病院が建設されていた。きっとこの後私は送り込まれるのだろう。右側は延々と道路が続き、車が何台も、しかも物凄いスピードで追い越して行く。追いつけるはずもない車を横目に、信号待ちをしている人を私は追い越した。

 

競争

 これは競争ではなかったようだ。さっきまで同じスタートラインに並んでいた者たちは最初のうち同じ道を走っていた。彼らは早かった。私は追いつけそうにもなかった。次第に彼らとはルートが変わっているようだった。それか私が逸れてしまったかだ。そのことは定かではなかった。そうだとするなら私はもう失格のはずだろう。ゴールラインに辿り着くこともなく、どこかでのたれ死んでいるかもしれない。そのあたりで倒れている人物を見つけたとするならそれはきっと私のことだ。それにゴールがあるのかすら分からない。私がこの場で倒れ込めば、それがゴールなのかもしれなかった。棄権することがゴールなのかもしれなかった。私は決められたルートを走っているのか、もうそのルートから外れて、自分で勝手に走っているのかまったく困惑していたのだ。伴走者もいない。前を誰も走っていない。私は気づけば草むらで、足場もない、草をかき分けていた。黄金色に輝く背の高い草むらを私はかき分け続けていた。川の流れる音が聞こえた。私は引き寄せられるように川沿いを走った。川の流れとは逆方向に進んでいた。水源を目指しているのだろうか?水源はどこに?なぜ私はゴールを目指しているのだろうか?ありもしないゴールを目指しているのだろうか?自ら設定する気はなかった。私は今この瞬間走ることしかできなかったのだ。走っている最中は苦しかった。しかし様々な発見もあった。景色や、人の声、体の感覚、風の知らせ、太陽の音、月の存在。それらが私の周りを伴走しているようにも思えた。それは音楽だった。私は指揮者でも、演奏者でもなかったのかもしれない。それなのに歌っていた。私は走りながらとにかく歌うことにしたのだ。声は出た。喉の調子は良かった。今はいいのかもしれない。これは時と場合によるのかもしれない。また信号待ちだった。私は今度は信号待ちをすることにした。信号を渡ると橋を越えることになる。そんなに長い橋ではなかった。下には遊覧船だとかそういうのが停泊している。海が近いのかもしれなかった。潮風が踊る。私の分まで、私の歌に合わせながら踊っているのだ。彼らは一体となっていた。お客さんではなかった。それは彼らの意識によるものだったし、ただ単に体が反応していたのだ。それらがただ素直に動き出した。

 

刻まれている

 「刻まれている。」Kは言った。「この怒りだとか、妬みだとかはもう刻まれているのだ。俺はその記憶を持っている。消化する気もない。ただ内在させ続けている。それがエネルギーとなり、俺は動き出す。」Kが差し出したティッシュには血が滲んでいた。「それでも構わない。俺は動き続けるのだ。自己実現は終わっている。煽られることもない。ただ命がけなだけだ。ただそうやって行動している。そして冷静に興奮している。これは暴動じゃない。ロジックだ。しっかりとしたロジックが組まれた、計画的犯行だ。しかしそれは簡単には動き出さない。覚悟を決めろ。命をかける覚悟を決めることだ。さあどうする?」

 

石版

 この色が変化しているように感じたのは光の度合いだろうか?太陽の仕業?見当がつかない。とにかく光に頼るしかなかった。依存していた。そうだ僕は依存していた。そのことを自覚していたんだ。辺りでは自立を促すデモが行われている。数万人が集った。広場はすっかり埋め尽くされていた。僕はそこにはいなかった。埋め尽くされていた広場には看板を持った人たちが多くいて、拡声器で声を張り上げる。時にミュージシャンが音楽を鳴らす。「民意が低い!民意が低い!」と連呼しながら音楽が始める。僕は居た堪れない気持ちになった。だったら一人でいる方が良かった。集団が苦手だった。集団行動、誰かと一緒にいることが苦手だった。うまく話せなかった。うまく関わることができなかったから、だから一人の方が気楽で良かった。何も無理やり引きづり出さないで欲しい。僕はもういいのだ。諦めたわけじゃない。抵抗することをやめたということで、何もかもを放棄したんだ。僕が語り尽くせるのは自らの無意識との対話と葛藤だ。せめぎ合いにを演じることだ。それらは刻まれた石版の文字を読み取るために使うしかない。だから僕はあの頃動き回っていたんだ。むしろ動かされていたことを思い出したんだ。

 

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今日は暖かかった。

遅めの起床。

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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