創作と探検の日記。

文、絵、歌、布など自給しています。

20180108

洞穴

 洞穴の中から見渡していた。外は晴れているようだったが星が出ていた。大きな星がひとつだけ煌々と照らしている。まだ朝だったと思う。洞穴の中は薄暗く、かと言って真っ暗ではない。紺と紫が入り混じっていた。星の明かりは洞穴の手前で遮られていた。辺りには丘が連なっていた。いくつもいくつもがまるでそびえ立つように独特な起伏を生んだ。洞穴をそれらの起伏が取り囲んでいた。ある一面だけは野原になっていた。人工的に手入れがされているわけではなかった。花が不規則に咲く。かと言ってお互いの邪魔をすることもなかった。自分の咲くために必要な範囲を知っていた。横取りや所有はしなかった。一列に整列しているかと思えば、ところどころ抜け落ちているようにも見えた。土は黄色くなっていた。砂漠ではなかったし、もっと湿り気のありそうな土だった。風が吹いて揺れたのは大樹だった。ひとつだけ丘の途中に大きく星に向かって背を伸ばしていた。枝葉は横に大きく広がり、それを支える幹は随分と立派に見えた。見渡す限り樹木はその一本だけだった。特に何かの実がなっているわけでもなさそうだった。そうだ、そうやってすぐに食べ物を求めてしまう。お腹が空いているのだろうか。そうではない。昨日だってしっかりご飯は食べていた。お皿まで綺麗に舐め尽くしたくらいだ。体を起こし洞穴から顔を出した。私は黄色い毛皮に覆われていた。気づいたらそうだった。顔は細長かった。嗅覚は前よりも良くなったように思う。耳も大きく空に伸びていたから良く聞こえるようになった。遠くの声まで。誰かが誰かの話をしていることや、足音、その足跡に残った香りを辿ればそこを通ったのが誰だったのかがわかった。時に風が運んでくることもある。何かの接近を知らせるのはいつも風だった。逆に雨はそういった香りを落としてしまう。それでも洞穴を包む雨の落下音や、潤った大地の匂いは格別うまかった。雨上がりにはまた鮮度の高い空気をご馳走してくれる。なんて気前がいいのだろう。大盤振る舞いはいつだって繰り返されるんだからありがたく存分にその瞬間を味わい尽くせばいいだろう。

 

交差点

 交差点で信号待ちをしていた。車の流れが変わり、私は信号を渡り始めた。ジャージ姿の男が私の横を通り過ぎていく。どこかで見たことがある顔だと思い振り返ると、男はKさんだった。白い光沢のあるジャージだった。髪はロングで、前髪を耳にかけていた。「久しぶり!」Kさんは私を見ると大きな声で言った。私はKさんに近づき数年ぶりの再会を喜んだ。そのままKさんについていく。近くにあったガソリンスタンドだった。Kさんはこのガソリンスタンドのロッカーに貴重品や着替えやらを預けてランニングをしているようだった。ロッカーの前にあったベンチに座り髪の伸びたKさんを眺めた。Kさんは喋りながら携帯電話をいじっていた。「やばい、電池が切れてしまう。」残り1%と画面に表示される。何か重要な連絡でもしていたのかと思ったが、開いているのはニュースだった。ガソリンスタンドの店員さんが2人カウンター奥で立っていたが、充電器を貸すサービスは行っていないといったことを態度で示していた。

 

イライラ

 「私はイライラすることほとんどないな。それは親とか家族に対してそういうことはあったけど今関わっている人にそんなふうにイライラすることは私にはないな。」Sが言った。「細かいことも気にしなくていいし、イライラしなくてもいい。私はただそういう感情があなたたちには湧かないってこと。私には概念がないのかもしれない。例えば仕事であるとか、時間だとか、そういうことが元々私の概念として存在していないのかもしれない。起伏はないわ。いたって落ち着いている。取り乱すこともない。ただ私の中の世界にいる。私は私の世界にいて、そこに時間は流れているのかもしれないし、しかしあの一方通行に動いていく秒針とは違うものだと思う。時間自体が点在している。あちらこちらに浮かんでいたり、泳いでいたり。こちらの世界より幾分か時間ものびのびしているように見聞き出来るわ。暖かい気候であったらいい。私は寒い気候がどうしても苦手なの。凍り付いてしまうから。体も時間もどこか凍り付いたようにしている。行き場を失い、視界が曇りウロウロと彷徨っているように見えるわ。だから皆が集まって暖をとるの。体を寄せ合って、今は体を上下に動かしながら、摩擦で熱を生んでいる。暖炉では火がパキパキと音を立てるわ。木材たちが唸り声をあげているのかもしれない。私たちはその命の雄叫びを聞きながら、暖かい室内で過ごしているわ。だからそう、イライラすることもなかったのかもしれない。対象ではなかったから。単にイライラする対象に私は皆をしていないのだと思うわ。そういう風に見ていない。イライラする対象だと思って見ていないの。」

 

ハーモニカ、鳥の声、男の歌。

 ハーモニカ、鳥の声、男の歌。ギター音。Gコード。ハーモニカ。けんけんぱしながら崖に落ちないように飛び越えていく。右へ左へ。下に落ちたら地獄なのだろうか。機械音。ゴミ収集車のメロディ。あの回転。海底からこだまする、大地からも。空からは風が舞い降りてきた。作業員たちの掛け声。エンジン音。油の匂い。充満する。手はベトベトに。水で洗い落そうにも落ちなかった。手は薄水色になっていた。爪の中まで。男は未だに歌っている。アカペラだった。ただ咽喉を鳴らしていた。通過させていた。かと思えばハーモニカを吹く。車が通り過ぎていく。エンジン音。他に何があるというのだろう。風が轟轟としている。窓と窓の隙間からなんとか入り込もうとしてくる。時にぶつかってコロコロと地面に落下してく。立ち上がってまた還っていく。薄暗かった。今日はお休みだった。珍しかった。薄暗い室内であなたは何を思い、何を歌っているのだろう。目の奥が沁みていた。寝不足なのだろうか。目がかゆい。アレルギーだろうか。指先は冷え始めていた。風の音が止み、追いかけるものはいなくなったのかもしれない。むしろ静かに停止。それでもかすかに電流は線に沿って逆流することもなく律儀に進んでいく。止めることなど出来なかった。ただその流れを見ていた。もう止まりそうだったが、なんとか息をしていた。

 

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今日は冷える。

 

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溝井孝司(Koji Mizoi)

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